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American Picture Book Review
更新日:2020年3月9日 / 新聞掲載日:2020年3月6日(第3330号)

「ヘア・ラヴ」

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『Hair Love』
MatthewA.Cherry著/VashtiHarrison画
(Kokila)
本作は今年2月のアカデミー賞にて最優秀短編アニメ賞を受賞した『ヘア・ラヴ』の同名絵本化作品だ。母親の不在時に父親が苦労して幼い娘の髪を結う物語だが、背後にいくつもの奥深い文化と歴史が潜んでいる。

ある朝、飼い猫ロッキーに起こされたズーリは、今日は特別な日なのだと思い出す。髪を念入りに整えなければならない。最近はお父さんが髪をやってくれているけれど、お父さんは忙しくて疲れている。今しばらく寝かせてあげて、髪は自分でやろうと思い立つ。ところがクルクルに縮れたズーリの髪は扱いが難しい。すったもんだしているうちに父親が起きてくる。自身はドレッドロックの父親にとってもズーリの髪は手強く、まるで格闘状態になる。帽子を被せてごまかそうとする父親に、ズーリは泣きながらiPadに収められた髪型のハウツー・ヴィデオを見せる。

かくして父親は娘のヘアスタイリングに成功し、完璧な仕上がりに喜んだズーリは赤いワンピースに着替え、仕上げとしてきらめくラヴェンダー色の"スーパーヒーロー・マント"を纏う。今時の女の子はキュートさと強さの両方を求めるのだ。

そこへ母親が帰ってくる。頭にスカーフを巻いている。病気を患って入院し、髪を無くしたのだ。母親はズーリのために髪型のハウツー・ヴィデオを残していた。黒人の女の子にとって髪がどれほど重要で、同時に父親にどれほどの負担となるか、母親は知っていたのだ。再会を祝って抱き合う親子3人、それはまさにヘア・ラヴ(髪への愛、髪による愛)なのだった。

本作の著者であり、原作短編アニメの監督でもあるマシュー・チェリーは元プロのアメフト選手だ。映画にキャリア転向したのち、黒人男性たちが娘の髪に四苦八苦するヴィデオをSNSで見掛け、短編アニメを作ろうと決意。資金をクラウド・ファンディングで募ったところ、目標をはるかに上回る額が集まった。人種を問わず、妻不在の夫が娘の髪を手掛けるのは至難の技だが、黒人の場合は直毛以上の手間とスキルが必要となる。大人にとっても黒人特有の髪型と手入れ法は文化であり、かつ先祖代々受け継がれた伝統でもある。さらに白人社会からは理解されない特質であり、人種差別の理由にもなる。多くの黒人がチェリー監督に寄付をしたのは、こうした背景がある。アカデミー賞・最優秀短編アニメ賞受賞の際、チェリー監督はテキサス在住の高校生、ディアンドレを舞台に招いた。ディアンドレはドレッドロックが理由で停学となった少年だ。チェリー監督は「(黒人の髪質による)髪型が理由で罰せられるべきではない。プレッシャーに負けて髪を切らない彼を、我々は愛している」とスピーチした。奇しくも2月はアメリカ黒人の歴史を学び、祝う黒人史月間でもあった。(どうもと・かおる=NY在住ライター)
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