連載 批評の移り変わり   ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 144|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く
更新日:2020年3月9日 / 新聞掲載日:2020年3月6日(第3330号)

連載 批評の移り変わり   ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 144

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蓮實重彥氏(左)とドゥーシェ(2006年撮影)

HK 
 例えば今日でも芸術に興味ある人ならば、コクトーやパニョルあたりの舞台は知っているかもしれませんが、ジョルジュ・フェドーやオクターヴ・ミルボーになると知らない人が多いのではないでしょうか。ただ、演劇ならば、自分が知らなくても貶すということはない。絵画や彫刻でも同じだと思います。
JD 
 それはまた別のスノビズムです。専門家と名乗る人々が、優れた作家だとしているから考えもせずに受け入れているだけです。自分の目で判断することがなくなっているのです。芸術とは、何よりも感じることです。頭で考えることではありません。私は芸術作品も見る際には――映画に関しても同様にして――、作品に正面から向き合うようにしています。まずは作品全体を感じることから始めます。それから少し作品に接近して、どうしてその色なのか、どうしてその形状なのか、どうしてそのような形式を取ったのかなどを分析します。しかし、分析する際に、作品から最初に受けた印象を失わないように意識しています。さもなければ、知識を並べ立てて説明することになってしまいます。感性と論理の間にいることが重要なのです。
HK 
 おっしゃることはよくわかります。しかし、今日では、もう時代が変わったように思われます。例えば、映画批評家を例にするとドゥーシェさんのような分析ができる人はもういません。
JD 
 確かにそのようです。彼らの批評はよくない。
HK 
 以前の批評と比べるとおもしろくないと思います。しかし世の中に求められているものが変わったのはないでしょうか。例えばセルジュ・ダネー以降、作品を客観的に語るのではなく、一人称を使って語るようになりました。その少し前、〈68年革命〉の頃には「私たち」を用いて社説のような形で語るようになりました。作家論から受け手の印象論へ移り変わるようにして、段階的に客観性が失われていきました。バルトの影響もあったはずです。
JD 
 私は、そのようなインテリの傾向からは距離をとり続けてきました。結局のところ、大学人たちの作ったそのような理論家の傾向は、映画に対しては大きなものをもたらさなかった。それは、大学の研究であり、映画批評ではありません。加えて、残念ながら、ある時期を境にして、批評家たちは作品について話さなくなってしまった。
HK 
 例えば日本では蓮實重彥がいました。しかし、その後になると批評を書く場すらなくなってきています。結局、批評文を読む人ももういないのだと思います。
JD 
 私は蓮實重彥には何度か会ったことがあります。
HK 
 文章を読んだことはありますか。『トラフィック』とかに掲載されています。
JD 
 もしかしたら少し読んだことがあるかもしれません。彼とは何度か言葉を交わしたことがあります。それだけでも、彼の日本における重要性がわかりました。結局のところ、日本のシネフィルは蓮實がいて幸運だったと思います。フランスを除いた、他の国には、彼のように優れた映画批評家はいなかった。
HK 
 アメリカにはポーリン・ケイルがいました。
JD 
 アメリカには確かにポーリン・ケイルがいました。しかし……。
HK 
 批評というよりもエッセイですよね。
JD 
 そうです。彼女の場合は、映画を見てその作品について語るというよりも、映画から受けた印象について書いていたと思います。彼女の書いたものについては、私はほとんど知りません。
HK 
 蓮實重彥は見ることの大変さを説いてました。
JD 
 それが重要なのです。多くの人は映画を見ることができません。
HK 
 「誰もが目にしたはずなのに見なかったものを見させる」。ドゥーシェさんのシネクラブはそのように説明されてますね。
JD 
 それは私が書いた説明ではありませんが、その説明文は気に入っています。つまり、いかなる観客でも、映画を最初から最後まで目で追うことができたのならば、映画の中で何かが起きていたのはわかるはずです。しかしながら、何が起きたのかはわかりません。その見たものがすぐには分からずとも、説明があれば見ることができるのです。もしかしたら、彼らはもう一度見ることになるかもしれません。しかしながら、そのようにして映画に向き合うことができるのです。    〈次号へつづく〉
(聞き手=久保宏樹/写真提供=シネマテーク・ブルゴーニュ)
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