資本主義の終焉と歴史の危機 書評|水野 和夫 (集英社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2020年3月16日

水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』
岐路に立つ近代資本主義システム ~独自の史観が見据える人類の未来~

資本主義の終焉と歴史の危機
著 者:水野 和夫
出版社:集英社
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ベストセラーとして多くの読者を得た本書は、雄大な歴史的視野と幅広い学術的知見にもとづいて、「資本主義の終焉」という未来と、それが人類にとって重大な「歴史の危機」であることを鮮やかに捉えた作品である。本書はこれからの未来を生き抜いていく、とくに若い世代の私たちにとって決して無関係ではない、広くて深い示唆に富む内容に満ちている。

冒頭での「資本主義の死期が近づいているのではないか」という著者のストレートな問題提起には正直なところ、かなり驚かされた。しかし本書を読了し、ゼロ金利、ゼロ成長、ゼロインフレという資本主義の直面する現状からの、ごく妥当な論理的帰結といえるのではないかと思うに至った。かつて17世紀初頭のイタリアのジェノヴァで生じた、金利2%を下回る「長い16世紀」の利子率革命と同じように、先進諸国で超低金利の時代が長期におよんで持続している。著者はこれを、長い「21世紀の利子率革命」と呼んでいる。「利子率=利潤率が2%を下回れば、資本側が得られるものはほぼゼロ」であり、そのことは、既存の経済・社会システムがもはや維持できなくなることを告げている。著者のいう「資本主義の終焉」とは、まさに「利子率革命」をつうじてもたらされる大転換のことだ。

本書全体の論旨と提言はきわめて明快である。1970年代以降、利潤率とほぼ一致する長期利子率の低水準に直面することになった、とくに先進資本主義国アメリカは、これまでの「地理的・物的空間(実物投資空間)」から、新たな利潤獲得のための「電子・金融的空間」を構築した。これは、いわゆる新自由主義(市場原理主義)の経済思想にもとづき、「IT(情報技術)と金融自由化が結合してつくられる空間」であり、これによって、1970年代に「終わりの始まり」を迎えたはずの資本主義システムを30年以上におよんで「延命」させることとなった。だが、新たな「電子・金融的空間」での利潤創出は、ITバブルと住宅バブル、2008年のリーマン・ショックを引き起こした。「バブルの生成過程で富が上位1%の人に集中し、バブル崩壊過程で国家が公的資金を注入し、巨大金融機関が救済される一方で、負担はバブル崩壊でリストラにあうなどのかたちで中間層に向けられ、彼らが貧困層に転落すること」になったわけである。くわえて地球の資源は有限で、中国やインドなど圧倒的な人口規模を抱える人々の皆が豊かになれるわけではないという厳然たる事実もある。資本主義における新興国の成長過程では、国内で貧富の二極化が生じうる恐れが、絶えず存在するのだ。そしてまた日本も、異次元の金融緩和と積極的な財政出動、構造改革・規制緩和によって「成長」を追求し続けるアベノミクスによって、「危機」の濃度を高めている(米中貿易戦争など世界経済の不透明感は本書刊行以降、一段と顕著になってきている)。「成長資本主義」から脱却することが重要であり、われわれは「脱成長という成長」を本気で考えるべき時期に突入したと、著者は最後に結論づけている。

とりわけ興味深いのは、「中心/周辺」という分割構造、そして「周辺」からの富(資本)の「中心」への「蒐集」をつうじて、近代資本主義と現代のグローバリゼーションが成立し、「周辺」の犠牲によって「中心」が存在できるという著者の指摘である。中心になれるのは全体の15%であり(近代の定員15%ルール)、格差が必然的に生じうる。ちなみに日本における平均年収を評者が調べたところ、1000万~2000万円が一般に富裕層といわれ、その人たちが占める割合は日本人口の5%以下で、日本人の上位15%は年収800万円以上だった(国税庁民間給与実態統計調査)。中国人は約2900万円と日本より富裕層の基準が高いが、これは中国総人口の1%にあたる。日本と中国におけるこの数字からも、新興国の近代化で起こる「中心」と「周辺」の格差が先進国より大きいことがわかるだろう。

著者によれば、世界でもっとも早くゼロ金利、ゼロ成長、ゼロインフレに直面した日本は、他の先進諸国に先駆けて資本主義というシステムから「卒業」し、新たな経済システムを構築できるアドバンテージをもっている。しかしそれはけっして確定的でない、未知なる問題だ(著者は続編『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』を2017年に刊行し、本書の議論をさらに深めている)。利潤を生みだしうる地球上のフロンティア(周辺)がもはや残されておらず、そうならば、「技術革新で成長するというのは、21世紀の時代では幻想にすぎないのです」という水野氏の逆説的主張は、われわれの常識を根本から反転させるものとして傾聴に値するのではないだろうか。

本書のコアメッセージのひとつである、「ゼロ金利は資本主義卒業の証」という言葉は、銀行と銀行員の未来についての卒業論文をまとめた評者の脳裏に強く残っている。貨幣(お金)や金融、銀行について考えることは、「資本主義」そのものを考えることだ。われわれは無意識のうちに、資本主義は絶えず成長し、また成長すべきであるという成長資本主義の考えに囚われてしまっていたのかもしれない。著者のいう「脱成長という成長」にもとづく定常化社会を実現していくなかで、新たな日本社会の姿と人々の豊かさのあり方を問い直すことは、「歴史の危機」(歴史の岐路)に直面する人類にとっての新しい挑戦ではないかと、評者は受け止めている。「長い21世紀」にはたくましい想像力=創造力こそが求められるのだから。

タイトルの重々しさと違い、本書には前向きで新鮮な息吹が感じられ、不思議な心地よさを読者に与えてくれている。

*括弧による文章は本書からの「引用」である。
この記事の中でご紹介した本
資本主義の終焉と歴史の危機/集英社
資本主義の終焉と歴史の危機
著 者:水野 和夫
出版社:集英社
「資本主義の終焉と歴史の危機」は以下からご購入できます
「資本主義の終焉と歴史の危機」出版社のホームページはこちら
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