ロートレアモン著/栗田勇訳『ロートレアモン全集』(書肆ユリイカ) 異端の作品の全貌 評者:安東次男 「週刊読書人」1958(昭和33)年6月9日号|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2020年3月8日 / 新聞掲載日:-0001年11月30日(第228号)

ロートレアモン著/栗田勇訳『ロートレアモン全集』(書肆ユリイカ)
異端の作品の全貌
評者:安東次男 「週刊読書人」1958(昭和33)年6月9日号

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「マルドロールの歌」の第一歌から第六歌までのほか、「詩学」「書簡」を含むロートレアモン全集三巻が、立派な本で出た。今までにも青柳瑞穂氏の部分訳はあったが、現存するかぎりの全作品が訳されたのは、今度の栗田勇君の訳がもちろん初めてである。およそフランス文学の翻訳にかけては、日本ぐらい盛んな国はあまりない。まず原書で読まなくても大抵のものは間に合う国柄である。それなのに、不思議なことに、一九世紀後半の衰弱した文学史のなかで巨大なイマジネール(幻想者)の足跡を残したこの詩人の作品がまともに紹介されなかったということには、彼の作品がとうてい日本語に移しえないとされたからであろう。単に難解であるというに止まらず、余りにも彼の哄笑が、呪詛が、愛憎が大きくて、未来に対する洞察が深遠であったためであろう。じじつ彼の前に立つと、ボードレールもランボーもけちに見えるほどである。シュルレアリスムをはじめ近代芸術に及ぼした影響は、計り知れないものがある。

ロートレアモン伯、本名はイジドール・デュカス、ウルグアイのモンテヴィデオで生れ、パリに出、孤独の中で書き、帝政をのろい、猛烈な人間厭悪の牙をむき、はがねのようなことばをたたきつけ、そして二十四歳の若さで謎の死をとげた。殺されたともいわれているが、その生涯の足どりはほとんど明らかでない。およそこの詩人ほど、生活という夾雑物のない、遺された一巻の書によって、後世に対決し、不逞の面魂をさらす作家はいない。栗田君の訳は若干抒情的にすぎるところも見えるが、全体としてよくこの詩人の風貌を伝え、日本語として達意の名訳である。私ならさしずめ、何を措いても出版文化賞を贈りたい仕事である。ろくでもない出版の氾濫する当今、詩人も小説家も批評家も、この異端の作品の全貌を前にして、顧みてじくじたるところがなければ幸いである。(あんどう・つぐお=詩人)

ロートレアモン著/栗田勇訳『ロートレアモン全集』(A5判・各巻平均一六〇頁・各五〇〇円・書肆ユリイカ)

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