サルトルのプリズム 二十世紀フランス文学・思想論サルトルのプリズム 二十世紀フランス文学・思想論 書評|澤田 直(法政大学出版局)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年3月14日 / 新聞掲載日:2020年3月13日(第3331号)

サルトルのプリズム 二十世紀フランス文学・思想論サルトルのプリズム 二十世紀フランス文学・思想論 書評
「生きること」と「書くこと」
―その関係を解明する―

サルトルのプリズム 二十世紀フランス文学・思想論サルトルのプリズム 二十世紀フランス文学・思想論
著 者:澤田 直
出版社:法政大学出版局
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 フランス文学・哲学の碩学によるサルトルについての第三の著作だ。『〈呼びかけ〉の経験』で実存主義の旗手の知られざる倫理思想を剔出し、『新・サルトル講義』で一般読者にこの作家・哲学者の新たな姿を提示した著者だが、今回は既発表論文に大幅な加筆を施し一冊にまとめ上げた。本書はサルトルと二〇世紀の作家・哲学者たち(プルースト、レヴィ=ストロース、ドゥルーズ=ガタリ、デリダ他)との関係を取り上げる第一部と、イメージ、性、文体など個別主題をめぐる第二部からなる。遺稿研究の現状報告や国内外の最新の知見への参照などの新情報を含むほか、九鬼周造を介してロシア系思想家と戦間期フランス思想を結ぶ論述など意外な発見も多い。

まず目を引くのはテクスト外的事実への行き届いた目配りだ。「作者の死」以来、作品と伝記的事実を分けて考察する態度はいわば常識となったが、著者は文脈の復元に必要な事実を慎重に拾い上げ、テクストと生の関係を再び結びなおす。「世代性」について論じる章で著者は「自己形成期にある作家にとっての文学像」という内面化された「神話」と現実とのギャップにこそ「作家の推進力」があるのだと論じ、個に内在する世代横断性に光を当てる。この視点からみると、作家・思想家たちとサルトルとの論争はより重層的な意味をもって立ちあらわれる。ブルトンを扱う章では、サルトルのシュルレアリスム批判が一九世紀後半に花開いたエグゾティスム文学への批判と地続きであると指摘される。西欧の他者を求め異国を訪ねる旅行小説と方法を異にするとしても、シュルレアリスムが現出させる「驚異」もまた同化されるべき他性なら、そこには共通の自民族中心主義が指摘できる。これはサルトルが青年期より惹かれてきた神話であり、小説『嘔吐』が乗り越えようとしたものでもあった。バタイユとの論争を扱う章では両者が共有する文化的風土として神秘主義の系譜が辿られ、論争が神秘主義ではなく文学と行動をめぐる相違に立脚していることが明かされる。バルトとサルトルを結ぶ線を探る章では、共同体のなかで「自分のリズムで生きることができる事実」を指す「イディオリトミー」に注目し、共同体、音楽、生のリズムをめぐる刺激的な論述が展開される。

第二部の最後に置かれた「自伝というトポス」は自伝『言葉』とフローベール論『家の馬鹿息子』を扱いながら「語り」と「生」との乖離、分裂・崩壊してゆく自我のありようを描く。ここで力強い主体性という作家の一般的なイメージは刷新される。

著者の関心は一貫している。サルトルという巨大な資料体を通じて、二〇世紀の文学と哲学がともに問題化してきた「生きること」と「書くこと」との関係を解明することだ。しかし光の当て方は多様だ。その多様性のなかに、投げかけた視線を乱反射させるプリズムとしての新しいサルトル像が浮かび上がる。
この記事の中でご紹介した本
サルトルのプリズム 二十世紀フランス文学・思想論サルトルのプリズム 二十世紀フランス文学・思想論/法政大学出版局
サルトルのプリズム 二十世紀フランス文学・思想論サルトルのプリズム 二十世紀フランス文学・思想論
著 者:澤田 直
出版社:法政大学出版局
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