戦後思想の到達点 柄谷行人、自身を語る 見田宗介、自身を語る 書評|柄谷 行人(NHK出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2020年3月14日 / 新聞掲載日:2020年3月13日(第3331号)

戦後思想の到達点 柄谷行人、自身を語る 見田宗介、自身を語る 書評
交響詩篇D/戦後思想とユートピア
二人の理論家を接合する試み

戦後思想の到達点 柄谷行人、自身を語る 見田宗介、自身を語る
著 者:柄谷 行人、見田 宗介、大澤 真幸
出版社:NHK出版
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 この本は「戦後思想のエッセンス」というシリーズの「創刊第0号」として出版されたものである。シリーズ全体の編者でもある大澤真幸による、柄谷行人、見田宗介へのインタビュー、および大澤氏による解説、論考によって構成されている。編者が述べるように、両人はともに、戦後という問題系にしばられることなく自身の著述活動を展開してきた。編者自身は戦後という問題系からの「自由度」という言葉を使っている。それは確かにそうだとしても、戦後思想という枠のなかで、両名はあまりにも異質である。この質の違いはどこからくるのか。それを考えるためには、まず「戦後思想」について考えてみる必要がある。

カントにとって理性とは、経験的な対象があたえられなくとも、推論によって人間の認識を拡大することのできる能力を意味している。この超経験的な能力を説明するのに、カントは「右」と「左」という、人間の空間認知にとって根源的な「感情」をもちいている(「思考の方向を定めるとはどういうことか」)。空間にかんするあらゆる情報が遮断されたとしても、右手と左手の差異は消失しない。ある固有な一点があたえられたら、人間はそこから左右の差異にもとづいた推論によって空間の全体を再構築することができる。ある日「奇跡」がおきて星座の位置がすべて入れ替わっても、そこに「北極星」があたえられさえすれば、そこから人間は自身にあたえられた左右の感情にしたがって、星空の全体を再構築することができるのである。

そう考えると、左翼、右翼という言い方は比喩以上の強制力をもっていると考えられる。翼wingとは、飛翔能力を確保した「腕」に他ならないからである。それは思考の方向性を定めるにあたっての、根源的な形象なのである。

こうした推論による再構築の力能をそなえた左右の「感情」が成立するためには、件の北極星、すなわちすべての空間が消去されたあとに残る点が措定されていることが求められる。この残存する点を、日本の戦争体験におき、そこから自身にとっての左右を定めるのが「戦後思想」の本質である。敗戦という「奇跡」がおきて日本という空間が入れ替わった時代に、何を自身の北極星として世界を再構築するのか。それが従軍という体験なのか、天皇という存在なのか、新しく定められた日本国憲法なのか、あるいは米軍による占領体験なのか――どれを選択するかによって、まったく違った世界が描かれることになる。いわゆる戦後思想が錯綜しているようにみえるのは、戦争体験におけるこの「北極星」の多様性、およびそのゼロ地点により固定される左右の方角の違いによるものなのだ。

そう考えると、本書のふたりが何故に戦後思想において異質な存在なのかがみえてくる。つまり両名は、ユートピアを自身の北極星として措定する性向をもっているのだ。柄谷行人は、七〇年代において「労農派」的な文学史観(絓秀実『天皇制の隠語』航思社)、あるいは構築主義的な文学観を導入することによって、近代文学を講座派的な説教くささから解放した。のみならず近年では、自身が考案した四つの交換様式において、きたるべき交換様式を「D」という記号で措定することによって、ユートピア的なビジョンを提示している。また見田宗介は、その活動の初期からユートピアへの志向性をかくしていない。それは近年世界的に流行している人類史の再構築という主題を先取りするものである。そんな両名に多大な影響を受けたという大澤氏によるインタビューは、格好の入門書であると同時に、老年の当人たちによる近況報告でもある。

だがそれよりも何よりも本書のクライマックスは、編者自身の執筆による終章「交響するD」であろう。あろうことか編者は、柄谷氏の「交換様式D」と、近年の見田氏が提唱している、「交響圏」と「ルール圏」からなる「関係のユートピア」を接合しようと試みているのである。そのような力技が可能であったのは、編者が先行するふたりに負けず劣らず「知への愛」に満ちた存在だからである。理論家であると同時に、すぐれたアンカーマンでもある大澤氏の本領が発揮された対話の記録として評価する。
この記事の中でご紹介した本
戦後思想の到達点 柄谷行人、自身を語る 見田宗介、自身を語る/NHK出版
戦後思想の到達点 柄谷行人、自身を語る 見田宗介、自身を語る
著 者:柄谷 行人、見田 宗介、大澤 真幸
出版社:NHK出版
「戦後思想の到達点 柄谷行人、自身を語る 見田宗介、自身を語る」は以下からご購入できます
「戦後思想の到達点 柄谷行人、自身を語る 見田宗介、自身を語る」出版社のホームページはこちら
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