フランクフルト学派の ナチ・ドイツ秘密レポート 書評|フランツ・F・ノイマン(みすず書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年3月14日 / 新聞掲載日:2020年3月13日(第3331号)

フランクフルト学派の ナチ・ドイツ秘密レポート 書評
戦後のドイツ史学の一つの淵源を見出す

フランクフルト学派の ナチ・ドイツ秘密レポート
著 者:フランツ・F・ノイマン、ヘルベルト・マルクーゼ、オットー・キルヒハイマー
翻訳者:野口 雅弘
編集者:ラファエル・ラウダーニ
出版社:みすず書房
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 本書はフランクフルト学派のメンバー、特にフランツ・ノイマン、ヘルベルト・マルクーゼ、オットー・キルヒハイマーの三人が、第二次世界大戦中にアメリカの戦略情報局(OSS)でナチ・ドイツの動向を調査・分析した成果報告書を収録したものである。原著に収録されたレポートは全部で三一本であり、日本語訳ではそのうち一五本が抄録されている。

よく知られているようにフランクフルト学派は歴史学にも巨大な影響力を振るってきた。特にアドルノ/ホルクハイマーの『啓蒙の弁証法』は、ナチズムを近代(理性)に内在する病理の表れと見なす二〇世紀末のドイツ史研究において、最重要な理論的支柱として位置づけられていた。それはもちろん一つには、古代ギリシア以来の西洋で連綿と受け継がれてきた「理性の野蛮」を剔抉したこの記念碑的著作が、眼前で荒れ狂うファシズムとの対決のなかで生み出されたものだったからだ(一九四四年に仮綴版が発行された)。

この『啓蒙の弁証法』のように、フランクフルト学派に特徴的なのは現実に背を向けて抽象的議論に耽るのではなく、むしろ刻下の社会の矛盾に目を凝らし、その来し方行く末を批判的に思考するというスタイルである。「社会-内-存在」としての哲学とも言ってよい。

それだけに彼らの哲学や理論は社会学的な経験的調査とも親和性が高い。『啓蒙の弁証法』の文化産業論もプリンストン大学のラジオ調査に裏づけられていたし、また反対にアドルノの『権威主義的パーソナリティ』(一九五〇年)のように、その哲学的テーゼがアンケート調査に応用された例もある。

本書で紹介されているノイマン、マルクーゼ、キルヒハイマーのOSSでの活動成果報告も、その意味では彼らの本業である理論的思索とまったく切り離されたものではなかった。たしかにレポートが執筆される際には「強迫観念的」な実証主義が徹底されており、用語の選択は当局によって一言一句細大漏らさず統制されていたという。そのため理論志向の強かった彼らのレポートは一度ならず「ボツ」にもなっていたらしい。

だが本書に収録されているレポート群に目を通すと、実証的な文章のなかにもそこかしこに彼らの哲学的・理論的な認識がにじみ出ているのが分かる。たとえばナチ・ドイツの中核にプロイセン軍国主義の歴史的伝統を見出す見解に対して、マルクーゼらは疑義を呈する。彼らによれば、ナチスの強みは「伝統的な地位や特権とは無縁であるテクノクラート的な効率性」、すなわちその近代性に存するという。これなどはまさに、かつてのドイツ史研究で見られた「特有の道」論に対する「近代の病理」論の主張そのままである。むろんノイマンによるホロコーストの過小評価など、その内容には種々問題があるにせよ、戦後のドイツ史学の一つの淵源を本書のなかに見出すのも、あながち牽強付会とは言えまい。
この記事の中でご紹介した本
フランクフルト学派の ナチ・ドイツ秘密レポート/みすず書房
フランクフルト学派の ナチ・ドイツ秘密レポート
著 者:フランツ・F・ノイマン、ヘルベルト・マルクーゼ、オットー・キルヒハイマー
翻訳者:野口 雅弘
編集者:ラファエル・ラウダーニ
出版社:みすず書房
「フランクフルト学派の ナチ・ドイツ秘密レポート」は以下からご購入できます
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