やりすぎの経済学 中毒・不摂生と社会政策 書評|ハロルド・ウィンター(大阪大学出版会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2020年3月14日 / 新聞掲載日:2020年3月13日(第3331号)

やりすぎの経済学 中毒・不摂生と社会政策 書評
経済学的視点から「中毒財」を論じる
中毒財と社会政策、個人の関係を考えるための一冊

やりすぎの経済学 中毒・不摂生と社会政策
著 者:ハロルド・ウィンター
翻訳者:河越 正明
出版社:大阪大学出版会
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 違法薬物の所持・使用により芸能人が逮捕され大きく報道される事案はとどまることを知らない。近年報道されている芸能人は使用歴が長かったり過去に逮捕歴があったりと中毒性の高さが窺える。違法薬物とまではいかなくても、我々の身の回りには、中毒性のあるもので溢れている。本書で具体的に考察されている、喫煙・飲酒・過食はその最たる例である。本書は経済学用語で「中毒財」と呼ばれる中毒性のあるものに対する経済学からの考察を紹介している。

本書が強調しているのは、中毒財と社会政策の関係である。ここで言う社会政策とは、中毒財の使用を禁止し罰則を設けたり、税金をかけたりすることで中毒財の使用に介入する政策である。経済学の考え方では、個人が合理的に行動するのであれば、社会政策による介入は個人の幸福を妨げてしまうため、何らかの理由が必要だ。たとえ中毒財であっても、本人がその性質を理解し、将来起こることを予見できているのであれば、中毒財の使用により本人は個人の幸福を達成しており、介入は正当化されない。古典派経済学者のジョン・スチュアート・ミルも、他人に愚かと思われる行為であっても誰にも邪魔されない自由として「愚行権」を唱えている。

経済学において中毒財使用に対する政策介入を正当化させるには、中毒財の使用が本人以外に影響を与える「外部性」の考えを用いるのが標準的だ。実際、喫煙は受動喫煙の問題があり、過食による肥満は医療費の圧迫を通じて社会に悪影響を与える。この考えに対して本書は、近年研究が進展している行動経済学の主要概念である「時間的非整合性」を用いて政策介入の正当化を議論している。時間的非整合性とは、ある時点でおこなった意思決定が別の時点でおこなった意思決定と異なってしまうことを言う。具体的には、「明日から禁煙する」と宣言しておいて、実際に明日になると喫煙してしまうような行動を指す。

このような時間的非整合性がある場合、政策介入が正当化される可能性がある。しかし、本書は時間的非整合性がある場合の政策介入についても、慎重に検討している。もし時間非整合性がありそれを本人が自覚しているのであれば、政策介入に対して賛成するだろう。将来の自分の近視眼的行動を防ぐことができるからだ。逆に時間的非整合性があるにも関わらず本人がそれを自覚していないのであれば、なぜそのような介入がなされるのか理解できないので、政策介入には反対してしまうかもしれない。しかし現実には、このような自身の時間的非整合性に無自覚な個人への対処が社会的に議論となることが多い。

本書は中毒とそれに対する社会政策に関する経済学の概念を紹介し、喫煙・飲酒・過食という具体的問題について論じている。議論は経済学や周辺分野の論文をベースに構築されており、文献の紹介も膨大である。中毒財と個人への介入という難題について考える際の素材としていただきたい一冊である。
この記事の中でご紹介した本
やりすぎの経済学 中毒・不摂生と社会政策/大阪大学出版会
やりすぎの経済学 中毒・不摂生と社会政策
著 者:ハロルド・ウィンター
翻訳者:河越 正明
出版社:大阪大学出版会
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