どこか、安心できる場所で 新しいイタリアの文学 書評|パオロ・コニェッティ(国書刊行会 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年3月21日 / 新聞掲載日:2020年3月20日(第3332号)

どこか、安心できる場所で 新しいイタリアの文学 書評
それぞれの「安心できる場所」
イタリアの「いま」を伝えるうえで必要な文学

どこか、安心できる場所で 新しいイタリアの文学
著 者:パオロ・コニェッティ
編集者:関口 英子、橋本 勝雄、アンドレア・ラオス
出版社:国書刊行会
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 イタリアの現代作家十三名の短篇を編んだアンソロジーである。イタリアの文学業界にも「純文学」と「エンタメ」の区別は存在するが、本書が紹介しているのはいずれも「純文寄り」の作家たちにあたる。純文学とエンタメはどう違うのかと問われれば答えに窮するが、本書のタイトルに寄せて考えるなら、次のようにいえるかもしれない。エンタメとは、「安心できる場所」でくつろぎながら、自身の世界を脅かされることなく味わえる文芸である。一方の純文学は、読み手を当事者に変貌させ、世界のどこかに存在するはずの「安心できる場所」を探す航海に出るよう迫ってくる。それはかならずしも心地よい経験ではなく、ときに読者は痛みを強いられることさえある。

『どこか、安心できる場所で』という邦題は、本書の末尾に収録されたフランチェスカ・マンフレーディの短篇タイトルから採られている。そして、冒頭に配されたパオロ・コニェッティの『雨の季節』のなかにも、「安心できる場所」という表現がそっと忍ばせてある。原文にあたってみると、「安心できる場所」に相当するイタリア語はそれぞれに異なるのだが、それが同じ日本語に訳されて、書籍の冒頭と末尾に置かれることによって、二つの作品が緩やかに響きあい、選集に淡い輪郭をもたらす効果を生んでいる。翻訳の妙であり、編集(配列)の妙であるといえようか。『雨の季節』の語り手である少年は、キャンプ場の森のなかに自らの居場所を見いだし、ネバーランドに迷いこんだ子供たちのように、海賊やインディアンが跋扈する世界を冒険する。ままならない現実を空想の力で加工して、世界をいっとき「安心できる場所」に変えること。それは一種の逃避かもしれないが、寄る辺ない日々を生き抜くための古くからの智慧でもある。

日本の読者から支持を得ているイタリアの作家といえば、カルヴィーノ、ブッツァーティ、タブッキ、あるいはロダーリらの名が真っ先に思い浮かぶ。こうした作家たちを(いくぶん大ざっぱに)まとめあげる「幻想性」というキーワードが、二〇世紀のイタリア文学のイメージを形づくってきた。しかし、本書の「序文」で作家の小野正嗣が述べているとおり、この選集においてはむしろ、「政治性」や「社会性」を帯びた作品が存在感を放っている。これまで移民にかんする文芸書をいくつか翻訳してきた評者にとっては、ソマリア系移民二世の書き手イジアーバ・シェーゴの作品(「わたしは誰?」)が取りあげられていることが嬉しかった。もっとも、この短篇のタイトル(原題はIdentitàで、「アイデンティティ」の意)を前にしたとき、ソマリアにルーツを持つ語り手がシャガールの絵画を前にして抱いたような思いが湧きあがってきたことも否定はできない。「移民とアイデンティティの組み合わせ? ありがちもいいところじゃない!」というわけである。しかし、ありがちだろうとなんだろうと、これはやはり、イタリアの「いま」を伝えるうえで必要な文学なのだ。というのも、イタリア文学が「イタリア人(だけ)の文学」ではなくなりつつあるのは、いまや動かしがたい事実であり、この短篇はそうした傾向を窺い知るための格好の事例といえるからである。

装丁にはイタリア人のイラストレーター(アレッサンドロ・サンナ)の作品が使われている。本から響く声に耳を澄ますよう誘いかけてくる、静かでありながら雄弁な佇まいの一冊に仕上がっている。
この記事の中でご紹介した本
どこか、安心できる場所で 新しいイタリアの文学 /国書刊行会
どこか、安心できる場所で 新しいイタリアの文学
著 者:パオロ・コニェッティ
編集者:関口 英子、橋本 勝雄、アンドレア・ラオス
出版社:国書刊行会
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