奇妙な瓦版の世界 江戸のスクープ大集合 書評|森田 健司(青幻舎)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年3月21日 / 新聞掲載日:2020年3月20日(第3332号)

奇妙な瓦版の世界 江戸のスクープ大集合 書評
庶民の喜怒哀楽に寄り添うメディア
非合法ゆえに闊達な表現、生きた歴史の光景が浮かび上がる

奇妙な瓦版の世界 江戸のスクープ大集合
著 者:森田 健司
出版社:青幻舎
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 今でこそネット・サーフィンを楽しんだり、ツイッターのトレンドに反応したり、私たちは好奇心を刺激するメディアへ容易にアクセスすることができるが、江戸時代の人々はどのようにして世間の話題やニュースにアクセスしていたのか。本書は「瓦版」がマスメディアとして機能し、市井の人々の「知りたい」気持ちや「面白がる」心に応えていたことを豊富なビジュアルから解き明かす。

「瓦版」とは記事や絵が木版で摺られた「簡単な新聞のようなもの」で、江戸時代には「読売」などと呼ばれていた。天和二~三年(一六八二~八三)頃には販売が確認されるが、庶民のあいだに勝手な情報が流通することに危惧をいだいた江戸幕府は、早くも貞享元年(一六八四)に禁令を出し、非合法な出版物となる。したがって店舗では売られず、役人を警戒した売り子たちによって市中で販売された。

本書では「怪異と珍獣」「黒船来航」「敵討」「戊辰戦争」「江戸の大事件」「大火と地震」「美談と奇談」「見立番付」「明治の瓦版」の九つの章が立てられ、各々の内容に沿った瓦版が全体で百図紹介される。「江戸のスクープ大集合」の副題のとおり、珍談、奇談、怪異、霊験、天変地異、事件の数々が取り上げられる。

例えば「雷鳥魚」と呼ばれる体長十メートルを超える人魚が討ち取られたこと、幕末の開国交渉でアメリカから贈答された蒸気機関車の模型のこと、女剣士が兄の敵討ちを果たしたこと、鳥羽・伏見の戦いを放屁合戦に擬えたもの、幕末期の物価上昇を商品同士の戦に譬えたものなど。人々の未知への好奇心や恐れ、面白がったり揶揄したりする気持ちの需要に応えた内容である。

風刺や諧謔、笑いの精神にあふれるものも多い。例えばアメリカから蒸気機関車の模型などを贈呈され、欧米のハイテクノロジーを見せられた幕府は、国力アピールのために力自慢の力士に返礼の米俵二百俵を運ばせた。その様子を描いた瓦版には、屈強な力士たちが軽々と、なかには貧弱なアメリカ水兵を米俵の上に載せて運ぶ姿が描かれる。日本の力強さをアピールしつつも瓦版では「笑い」が打ち出され、ユーモアを愛する江戸庶民の心性が反映される。このような豊かな感情と旺盛な想像力をこの廉価なメディアのなかに表わし得たのは、非合法ゆえに闊達な表現が可能となった制作の背景があろう。

瓦版は「新聞のようなもの」ではあるが、現在の「ジャーナリズム」とは異なり、使命感などとは無縁で、題材となるのは基本的に「売れそうなもの」だけであったという。驚くほど正確な情報もあれば、いいかげんで虚偽に満ちたものもあり、そのすべてに共通するのは見事なまでのエンターテイメント性であることを著者は指摘する。瓦版という庶民の喜怒哀楽に寄り添ったメディアを眺めることで、人々の生きた歴史の光景が浮かび上がってくる。本書を読んで江戸時代がいっそう身近に感じられるようになった。
この記事の中でご紹介した本
奇妙な瓦版の世界 江戸のスクープ大集合/青幻舎
奇妙な瓦版の世界 江戸のスクープ大集合
著 者:森田 健司
出版社:青幻舎
「奇妙な瓦版の世界 江戸のスクープ大集合」は以下からご購入できます
「奇妙な瓦版の世界 江戸のスクープ大集合」出版社のホームページはこちら
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