美術家・デザイナーになるまで いま語られる青春の造形 書評|前田 朗(彩流社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年3月21日 / 新聞掲載日:2020年3月20日(第3332号)

美術家・デザイナーになるまで いま語られる青春の造形 書評
十人十色の芸術人生から、 デザイン、造形、アートを考える

美術家・デザイナーになるまで いま語られる青春の造形
著 者:前田 朗
出版社:彩流社
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 造形作家の「造形」とは何だろうか。美術作家とはどう違うのか。造形とは形をつくることだが、デザインを含めた「モノ」をつくる美術表現らしい。だがデザイナーでも、エディトリアルやグラフィックといった二次元の場合は造形作家とはいわない。すると三次元、立体の作品をつくる人ということになる。

本書は一〇人のデザイナー、美術家などのインタビュー集で、波多野哲朗、薄靖彦、益田文和、春日明夫、中野恵美子、鍵谷明子、大橋正芳、小川幸造、松尾多英、母袋俊也だ。聞き手の前田朗を含めいずれも東京造形大学で教鞭を執った人たちであり、彼らの人生そのものが凝縮され、とても面白い。

映画監督で批評家である波多野哲朗は、バイクでユーラシア大陸を学生たちと横断した話、キューバでドキュメンタリー映画を製作した話がいい。春日明夫の「玩具というのは、人間の幸せや平和のためにある」という言葉には、玩具研究の先駆者のリアリティがある。中野恵美子は染織とファブリックアートを語るが、留学したアメリカではクリティック(講評)の重要性を、サンパウロでは南米の「良い加減」を学んだという。文化人類学の鍵谷明子は、インドネシアで魔女を研究していたら自らが「ライジュアの魔女」だと思われていた。そのライジュアでは、主食が樹液を煮詰めたものというのも驚きであり、女性が夫を寝取る「攻撃的姦通」の話も興味深い。

彫刻家の小川幸造は、当時、東京造形大学で教えていた佐藤忠良に、「才能ないし、やめたい」というと「一食を抜かして夢中になれることが才能じゃないか」といわれた。松尾多英は三〇年以上、砂丘を描き続けているが、静岡の浜岡砂丘で、砂が風で風紋を消しては描くのを見て、涙があふれたことがきっかけだという。画家の母袋俊也の小説家ル・クレジオとのエピソード、さらに教鞭をとり早くに亡くなった「もの派」の美術家、成田克彦へのオマージュも重要だ。また本書には、大学開校から教えたさまざまな人々もちりばめられている。初代校長は桑沢洋子で、吉田喜重、松本俊夫、蓮實重彥、秋山邦晴、田原総一朗、朝倉摂、杉浦康平、針生一郎、舟越保武など錚々たる名前があがる。

そしてデザイン大学というカタカナ名前が認可されず造形大学になったこと、さらに、桑沢洋子と桑沢デザイン学校の関係で生まれたこと、バウハウスのグロピウスが桑沢を訪れたなどの関連も語られる。バウハウスの活動は一九一九年から一四年間と短く、アメリカのニューバウハウスやドイツのウルム造形大学などに受け継がれ、ドイツのブラウン、マックのデザインにまで影響した。日本への影響はあまり知られていないが、桑沢と造形大の話を通して日本とバウハウスのつながりが見えてくるのだ。二〇一九年には、バウハウスのオスカー・シュレンマーの「トリアディック・バレエ」による「ランタン・バレエ」がゲーテ・インスティテュート東京で行われたが、その舞台も桑沢の学生によるものだった。

本書で語られるそれぞれの芸術表現はまさに十人十色で、個々の濃密な人生が描き出され、一〇冊の書籍にも匹敵する。本書を読むと、デザイン、造形、美術の違いという疑問が浮かぶが、一〇人の人生とともにそれを問いかけてくるのが、本書の一つの役割といえるかもしれない。
この記事の中でご紹介した本
美術家・デザイナーになるまで いま語られる青春の造形/彩流社
美術家・デザイナーになるまで いま語られる青春の造形
著 者:前田 朗
出版社:彩流社
「美術家・デザイナーになるまで いま語られる青春の造形」は以下からご購入できます
「美術家・デザイナーになるまで いま語られる青春の造形」出版社のホームページはこちら
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前田 朗
前田 朗(まえだあきら)東京造形大学教授
東京造形大学教授。刑事人権論、戦争犯罪論。 著書に『ヘイト・スピーチと地方自治体 共犯にならないために』、『ヘイト・スピーチ法 研究原論 ヘイト・スピーチを受けない権利』(三一書房)、『メディアと市民 責任なき表現の自由が社会を破壊する』(彩流社)、『戦争犯罪論』、『ジェノサイド論』、『人道に対する罪』(以上青木書店)、『非国民がやってきた!』、『パロディのパロディ 井上ひさし再入門』(以上耕文社)、『増補新版ヘイト・クライム』、『ヘイト・スピーチ法研究序説』(以上三一書房)、『旅する平和学』(彩流社)、共著に 『福島原発集団訴訟の判決を巡って 民衆の視座から読書人ブックレット』(読書人)、『ヘイトスピーチは止められる  社会運動 No.432』(ほんの木)『脱原発の哲学』は語る 読書人eBOOKS』(佐藤嘉幸、田口卓臣、村田弘との共著)、『思想はいま なにを語るべきか』『ヘイト・クライムと植民地主義 反差別と自己決定権のために』(共に、三一書房)、『語られる佐藤忠良 彫刻・デザイン・美術教育 桑沢文庫』(アイノア)、『思想の廃墟から 歴史への責任、権力への対峙のために』『東アジアに平和の海を』、『「慰安婦」問題・日韓「合意」を考える』(以上、彩流社)、訳書にラディカ・クマラスワミ 『女性に対する暴力』(明石書店)、メロディ・チャビス『ミーナ――立ちあがるアフガニスタン女性』(耕文社)など。
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