私は本屋が好きでした あふれるヘイト本、つくって売るまでの舞台裏 書評|永江 朗(太郎次郎社エディタス)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年3月21日 / 新聞掲載日:2020年3月20日(第3332号)

私は本屋が好きでした あふれるヘイト本、つくって売るまでの舞台裏 書評
ヘイト本氾濫の現象の裏にある、 配本問題とネット書店

私は本屋が好きでした あふれるヘイト本、つくって売るまでの舞台裏
著 者:永江 朗
出版社:太郎次郎社エディタス
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 ジェノサイドはヘイトスピーチ(差別煽動)から始まる。かつてユーゴは政治家による他民族排除の扇動によって崩壊した。近年ではミャンマー政府によるロヒンギャ(ラカイン州に暮らすムスリム)に対する「民族浄化」も官製のヘイトによって排外の毒が蔓延した結果行われた。先住の民族にも関わらず「ロヒンギャは一九五〇年代にインドからやって来た違法移民」というデマを拡散したのである。

何が言いたいかというと、要はヘイトは社会を壊すのである。本書は、そのような差別煽動の書籍があふれる現状を憂いて、舞台裏に迫っている。著者は「ヘイトスピーチやヘイトクライムとヘイト本は、本質的に同じであり、ヘイト本がヘイトスピーチ、ヘイトクライムにいわばお墨付きを与えている」と訴える。同感である。古くは「ジオンの議定書」というロシアで発刊されたヘイト本があるが、これが「ユダヤ人が世界征服を狙っている」という趣旨でナチスのホロコーストの論拠にされてしまった。

著者の志についてはリスペクトする。議論喚起のきっかけになったことも評価されるべき本である。ただ重要な問題提起であるが故に書かれている主張については、敢えて疑義を呈したい。

挑発的なタイトルそのものにヘイト本の流通についての責任を書店、それも町の個人書店に求めている。坪数の少ない本屋には確かにヘイト本があふれている。しかしこの現象は、本の問屋である取次による「見計らい本」制度によることも大きい。取次から一方的に送られて来るシステムで、これを返品したとしても一度は支払いをしなくてはならない。しかも大型書店と異なり中小零細書店の場合は月末五日間の返品についての精算は翌月に回される。実際に複数の個人書店に話を訊くと「こういう他国や少数者を中傷するだけの本は売りたくないが、版元の送本要請で取次から一方的に送られて、請求されるから並べざるを得ない」という苦しい声が聞かされる。

本書では見計らいを止めたり、取次を使わないセレクトショップへの移行を説くが、高齢化の進む個人書店にとっては至難であり、当事者にすれば机上で言うほど安易なものではない。それよりも書店の責を追うならば、書店側からの需要を無視してこのヘイト本の見計らいを続けている取次にも責任があることを見逃すわけにはいかない。しかし、文中では「まったくの透明な装置」として「取次がやれることは少ないかもしれない」とその責任については、言及していない。決してそうではない。

一月二十四日に神保町・「読書人隣り」で行われたシンポジウム「街の本屋を無くすな!」で冒頭にこのヘイト本の見計らい配本問題を質すと、トーハンの小野専務は「現在の問題を見て、極端に政治的、思想的な本についての見計らいについては送る前にこれからは本屋さんに確認を取ることにする」と発言したのである。内容によって配本を止めたら検閲に繫がるが、需要の無いところに一方的に送り付けるのを止めれば返品も減らせる。取次がやれることはあるのだ。

またヘイト本については、製造している版元の責任が圧倒的に大きいが、それでも本屋の責任に向かうならば大型書店であろう。二〇一四年と記憶するが、レジ横に嫌中憎韓本を並べ専用のコーナーまで設けていたのも、在特会の元会長桜井誠の『大嫌韓時代』をポップまで作って販売に力を入れていたのも、神保町を代表する二つの大型店であった。その注文の多さも販売実績も推して知ることができよう。

さらに言えば、最もヘイト本を売ったのは間違いなくネット書店である。弁護士に対する大量の不当懲戒請求を扇動した『余命三年時事日記』がAmazonで総合一位を記録したのは知られることである。これらに触れずに一番立場の弱い町の書店に責任を負わせると、中には、請求覚悟でヘイト本を返品する本屋もあるにも関わらず、読者に「町の本屋は何の努力もしてない」との誤解を生じさせかねない。ただでさえ進んでいる書店廃業を加速させる危険性さえある。町の本屋が無くなってもヘイト本の製造元は痛くも痒くもなく、むしろネット書店の一人勝ちになれば、そのシェアは広がるだろう。ヘイト本の氾濫を憂いて舞台裏に迫るならば、なぜ著者は取次とAmazonに向かわなかったのか。肝心箇所への直当たりの取材をもっと読みたかった。
この記事の中でご紹介した本
私は本屋が好きでした あふれるヘイト本、つくって売るまでの舞台裏/太郎次郎社エディタス
私は本屋が好きでした あふれるヘイト本、つくって売るまでの舞台裏
著 者:永江 朗
出版社:太郎次郎社エディタス
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