ワンダーウーマンの秘密の歴史 書評|ジル・ルポール(青土社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年3月21日 / 新聞掲載日:2020年3月20日(第3332号)

ワンダーウーマンの秘密の歴史 書評
分裂したワンダーウーマン像を解き明かす鍵
「隠された自己」をキーワードに秘密を開示する

ワンダーウーマンの秘密の歴史
著 者:ジル・ルポール
翻訳者:鷲谷 花
出版社:青土社
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 二○一六年末、国連の名誉大使に任命された女性がたった二ヶ月で解任された、というニュースが飛び込んできた。彼女の名はワンダーウーマン。女性の地位向上の象徴に選ばれた彼女に対し、その役職に相応しくないという抗議が寄せられたからだった。嘆願サイトにはこのように記されている——「もともとの原作者の狙いは、フェミニスト的なメッセージを持つ強靱で独立心のある女性〝戦士〟を描くことだったかもしれないが」、現在は肌も露わな衣装を身にまとったピンナップ・ガールになってしまった、というのである。

しかし一方で例えば一九七二年七月に刊行された雑誌『ミズ』の表紙では、「ワンダーウーマンを大統領に」というロゴとともに彼女は描かれる。彼女はピンナップ・ガールなのかフェミニスト・アイコンなのか。この乖離はなぜ起こるのか。われわれが見逃している「なにか」があるのだろうか? そもそもワンダーウーマンはいかにして誕生したのか? ワンダーウーマン誕生のその裏に、歴史の必然があったことを詳細に解き明かしたのが、ハーバード大学歴史学教授のジル・ルポールによる本書『ワンダーウーマンの秘密の歴史』に他ならない。

ルポールは、ワンダーウーマンのコミックスを読み込むことはもちろん、彼女の生みの親である心理学者ウィリアム・モールトン・マーストン(一八九三—一九四七)の生涯を徹底的に調べ上げた。ワンダーウーマンのフェミニスト的側面は、マーストンが目の当たりにした世紀転換期の女性参政権運動、マーガレット・サンガーらによる産児制限運動、そしてシャーロット・パーキンス・ギルマンによるフェミニスト小説『フェミニジア』などにたどることができる。

だが本書の白眉は、「隠された自己」をキーワードとして、マーストンの人生とワンダーウーマンを併置して語るルポールの考察の鮮やかさにある。その様々な「秘密」こそが本書の肝であり、冒頭で挙げたような分裂したワンダーウーマン像を解き明かす鍵となるものなのだ。それはハーバード大学で心理学を学んだマーストンが嘘発見器を発案したこととも関係する。ワンダーウーマンが恋人トレヴァーに正体を隠し通したように、マーストン自身も大きな秘密を抱えていた。ルポールは、マーストン自身が、妻サディ・ホロウェイと愛人オリーブ・バーン、そしてそれぞれの子どもたちと共に暮らす家族形態を明らかにする。法務博士号をも持ちキャリアウーマンとして家族を支えたホロウェイ、サンガーの姪でありマーストンの助手であったバーンというふたりの女性を必要としたマーストンの「隠された自己」とは、強い女性に支配されることではなかったか。

ルポールによるこの秘密の開示は、フェミニズムとワンダーウーマンの複雑な関係性を示しているとも言えよう。ワンダーウーマンの新作映画の公開が控えているいま、ぜひ読んでおきたい一冊である。
この記事の中でご紹介した本
ワンダーウーマンの秘密の歴史/青土社
ワンダーウーマンの秘密の歴史
著 者:ジル・ルポール
翻訳者:鷲谷 花
出版社:青土社
「ワンダーウーマンの秘密の歴史」は以下からご購入できます
「ワンダーウーマンの秘密の歴史」出版社のホームページはこちら
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