新実存主義 書評|マルクス・ガブリエル(岩波書店 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年3月21日 / 新聞掲載日:2020年3月20日(第3332号)

新実存主義 書評
ヒューマニティーズ(人文学)の復興を告げる
私たち自身を哲学するためのマニフェスト

新実存主義
著 者:マルクス・ガブリエル
翻訳者:廣瀬 覚
出版社:岩波書店
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 マルクス・ガブリエル『新実存主義』(Neo-Existentialism)は、『なぜ世界は存在しないのか』や『「私」は脳ではない』(ともに、講談社選書メチエ)で提唱された「新実在論」(New Realism)を、「人間」という「意味の場」に大きく展開するものだ。

現代哲学の思潮は、「存在」は「思考」から独立している、と主張する「実在論」に傾いている。そこでは、人間は「物自体」を認識することはできない、と考えたイマヌエル・カント以後の「観念論」=「人間中心主義」が批判される。一般的にはガブリエルも、「人間」から切り離された「物自体」、「事実」、「実在」を擁護する「ポスト・ヒューマニティーズ」の論者の一人だとみなされている。

しかし、『新実存主義』の注意深い読者ならば、ガブリエルが提起する「実在論」は、じつは私たち一人ひとりの「生きかた」に深く関係する、ということに気づくだろう。すなわち、「ポスト・ヒューマニティーズ」ではなく「ヒューマニティーズ」の復興が、現代哲学の本質的課題である、と訴えているのだ。

19世紀から20世紀にかけて、セーレン・キルケゴール、フリードリヒ・ニーチェ、ジャン=ポール・サルトルなどの実存哲学者は、近代の人間に与えられた「自由」と、それゆえ否応なく突き当たった生の「困難」を問題にした。ガブリエルが本書で打ち出したのは、その伝統を自覚的に引き受ける21世紀の「実存哲学」にほかならない。

その要諦はこうだ。現代社会では、一切は自然の秩序に還元できる、とする「自然主義」的信念が蔓延している。自然科学の発展とともに現われた「自然主義」は、実証的方法で探究されるものだけが真に存在する、と主張する。だとすれば、「心」は何らかの観察可能な「物質」(たとえば、「脳」)に還元されることになる。

ところが、「心」と「物」の本質は大きく異なるし、そもそも「心」という言葉は複数の「意味の場」に現われるのだから、「心」をある特権的な「意味の場」(=「自然主義」)で規定することなどできない。つまり、心的語彙は、本質的に、カテゴリーを異にする雑多な概念の集まりなのだ。

そこで、ガブリエルは、「心」という曖昧な概念の代わりに、「行為の説明構造」として「精神」(Geist)を提起する。「精神」はドイツ観念論における重要概念だが、その本質的特徴の一つは、自分とはいかなる存在なのか、を把握する「自己意識」である。それを「自由の意識」と言いかえることもできる。

「新実存主義」は、現代の「自然主義」に対抗する「自由の哲学」であり、私たちがもう一度、私たち自身について哲学するために書かれたマニフェストだ。自然科学の成果を尊重しつつ、人間が生きる意味と価値を新しく考えてみること―この課題は、まさしく近代の成熟期に人間学の祖であるカントが取り組んだものである。
この記事の中でご紹介した本
新実存主義/岩波書店
新実存主義
著 者:マルクス・ガブリエル
翻訳者:廣瀬 覚
出版社:岩波書店
「新実存主義」は以下からご購入できます
「新実存主義」出版社のホームページはこちら
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