生命進化の物理法則 書評|チャールズ・コケル(河出書房新社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2020年3月21日 / 新聞掲載日:2020年3月20日(第3332号)

生命進化の物理法則 書評
物理学から生命の在り方を問う普遍生物学の挑戦
マクロからミクロ、そして宇宙への壮大な旅とその思考法について

生命進化の物理法則
著 者:チャールズ・コケル
翻訳者:藤原 多伽夫
出版社:河出書房新社
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 たとえばロマネスコのツボミの並び方やカタツムリやオウムガイなどの殻に見られる螺旋的な構造。はじめに一を二つ並べ、以降は一つ前と二つ前の数の和を並べていくフィボナッチ数列は、拡張していき複素平面上にグラフで表すと、ロマネスコなどの螺旋構造と相似なものとなる。この有名な例のように、数理諸科学から生命の在り方の理解を試みる学際的で刺激的な普遍生物学なる分野がある。これが本書のバックボーンである。

著者のチャールズ・コケルは、「謝辞」で自身が「長年にわたって」「数多くの科学分野を自在に横断し」てきたと述べている。実際にコケルは、分子生物学や生物物理学を修め、様々な研究者とともに極地研究に加わったり「物質の性質」なる物理学講座を受け持ったりもしてきた。現在は英国宇宙生物学研究センター所長やエディンバラ大学の宇宙生物学専攻の教授を務めている。これまでの多岐にわたる研究活動の経験を生かし、宇宙を視野に入れた物理学から様々な「階層」の生命現象の理解を試み、普遍生物学の可能性を力強く示してみせたのが本書である。

ちなみに「階層」とは、本書でコケルが述べた言葉である。これは行動や外部形態、細胞からDNAなど、対象とする生命現象のミクロ、マクロというレベルと同義である。

たとえば穴掘りを環境への圧力と捉えるならば、土へ力を加える際にその面積を小さくすることで圧力が強くなるという単純な物理法則。これに則っているからモグラやミミズの外部形態が適応的である、とコケルはその二種間の共時性を示している。本書では、群れや外部形態のマクロ的視点からはじめDNAや分子と徐々にミクロ的視点に「階層」を下げていく。そのように辿っていくのは、コケルの大きな関心が地球外生物の在り方を理論的に考究することの表れであろう。

本書の中盤からは、分子やDNAなどの個体を形成する構造やその機能について、物理法則を援用して考えられている。この物理法則とは、地球内部の特別な事象ではない。たとえば生態学が地球環境と主体の関係を考究する分野であるように、多くの生命科学は、地球内部の論理で支えられている生命の在り方に注視する。そこに宇宙に通底する物理法則という視座も加え、広い「階層」で生命を理解することで、いまだ見ぬ地球外生命の在り方をコケルは説得的に描いている。たとえば宇宙であっても炭素と水が生命を成立させる条件に適していることを生化学と物理学を用いて主張することで、宇宙での生命が存在しうる環境とその範囲であるハビタブルゾーンの在り方も推察している。

そもそも「序」では、以上のような往還の「思考法」を探求するのが本書だと述べられている。実際に地球外生命への考察を経ることで、本書は生物の思想書としても興味深いものになっている。というのも、いまだ確認できない存在への精緻な推測によって、既存の生命科学と物理学の在り方も再び問われるからである。たとえばハビタブルゾーンについての推測をより強固にするためには、ケイ素が生命を創成できるか否かの更なる検討が必要である。このように、思索によって科学そのものを発展させる視座を導きだせる強度が、本書にはある。これは私の評価ではあるが、「第11章」でも普遍生物学の可能性が宇宙的視座から検討されている。普遍生物学の有り様にも立ち返り論を進めている点で、生命の在り方をめぐる思想書とも本書は読めるのである。

本書の結論は、その多様な生命の「階層」への単純な理解が決して無味乾燥なものでなく美しいというものである。私も以上で示してきたように、生命の数理的な美しさへの諸相と同時に、普遍生物学の在り方も検討できる生物論としても楽しめるのが本書の最大の魅力だと考える。

最後に、さらに普遍生物学とコケルの思索を楽しめるものとして、銀河系の在り方をめぐる惑星科学と生物の進化史との関係を考究したコケルのもう一つの和訳書、大蔵雄之助訳『不都合な生命 地球2億2500万年銀河の旅』(麗沢大学出版会、二〇〇九年)を挙げておく。
この記事の中でご紹介した本
生命進化の物理法則/河出書房新社
生命進化の物理法則
著 者:チャールズ・コケル
翻訳者:藤原 多伽夫
出版社:河出書房新社
「生命進化の物理法則」は以下からご購入できます
「生命進化の物理法則」出版社のホームページはこちら
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