佐々涼子インタビュー  生きるということ、幸せの拠り所  『エンド・オブ・ライフ』(集英社インターナショナル)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2020年3月21日 / 新聞掲載日:2020年3月20日(第3332号)

佐々涼子インタビュー
生きるということ、幸せの拠り所
『エンド・オブ・ライフ』(集英社インターナショナル)刊行を機に

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ノンフィクション作家の佐々涼子氏が『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている』(早川書房)から六年ぶりに『エンド・オブ・ライフ』(集英社インターナショナル)を上梓した。在宅医療の現場を取材した二〇一三年と、訪問看護師の森山文則氏の終末期に寄り添った二〇一八年から現在を交互に描き、在宅での終末期医療を通し、いくつかの大切な人生の終わりにひかりを当てた。そこに照らし出されたのは、人が生きる意味と、先に逝く人々からの、幸せに生きる方法についての貴重な教えだった。刊行を機に佐々氏にお話を伺った。               (編集部)
第1回
母のこと/森山文則さんの物語

佐々 涼子氏
――本書には、二〇一三年と二〇一八年現在が交互に描かれていきますが、二〇一三年は『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(集英社)が刊行された翌年なんですね。久しぶりに『エンジェルフライト』を開き、お母様の病状に触れられているのを目にして、本書のはじまりとリンクしていることに気づきました。
佐々 
 『エンジェルフライト』も『エンド・オブ・ライフ』にも、たくさんの死にまつわる話を書いていますが、思い返せば二冊とも、執筆の動機には母のことがあったのだと思います。

――二〇一三年は東日本大震災からそう時が経っておらず、死や痛みへの感覚が明敏だったように思います。ところがいつの間にか、死は常に隣にあるという意識が希薄になり、月日を消費するような慌ただしい生き方をしていたことに、この本のおかげで気づきました。

そしてなぜ本書に、二〇一三年から二〇一八年への隔たりがあるかといえば、佐々さんがその間、お仕事を離れておられたからだと。事情を知らず驚きました。
佐々 
 『紙つなげ!』が二〇一四年に出た後、体調を崩して執筆が続けられなくなったんです。その後、私が向かった先は、インドやタイ、バングラデシュでした。

私も消費するように時を過ごし、忘れてしまうことが多くありました。でも二〇一三年頃に出会った、訪問医療に携わる方々や患者さん、そのご家族が教えてくれたことは、ずっと忘れられずにあって、無意識のうちに影響されていたんですよね。

桜の咲くご自宅で亡くなられた篠崎さんは、キリスト教徒のご一家で、すい臓がんだと知った直後は混乱されたものの、緩和治療が効いて痛みが抑えられるようになると、残された日々を穏やかに、楽しく笑って過ごそうとされました。その姿に、信じるものがある人は強いのだなと、自分自身の宗教観を点検しなければいけない、と感じていました。私はどんな人生哲学や宗教をもってこの先を生きていくのか。再び執筆に向かうまではそういうことを考えていた時期でした。

――「これは、私の友人、森山文則さんの物語」と、本の扉に記されています。でもそもそも、在宅医療の取材を始めた当初は、『エンジェルフライト』のようなお仕事ノンフィクションになるはずだったのではないですか。
佐々 
 ええ、「在宅医療のお医者さん大活躍」というような、お仕事ものを書くつもりでした。在宅医療の仕事を通して、真の生き方を教えてくれる先生がいて、その教えに私たちが導いてもらえるような本を書こうと思っていました。

でも取材を始めてみると、在宅医療で自分らしく幸せに暮らしている方もいれば、在宅医療がために疲弊している方もいました。病院のような完全管理体制ではないので、家族に負担をかけますし、患者が自分で決断しなければならないことも多いですから。訊いてみると訪問看護師でさえ、自分自身の最期は病院やホスピスがいい、という方が多くて、どう書いてよいのか答えがみつからなかったんです。

私が出会った在宅医療のエピソードは、一つひとつ心に沁みるものでした。でもだからといって、在宅医療を手放しで推奨する書き方をしてよいものか。それはそれぞれの方の終末期を、もっといえば生き方を、一括りにしてしまうような行為なのではないか。

取材をして気づけたのは、人生を最良のものにするために医療を用いるのであって、私たちが医療という枠組みの中で、そのレールに乗せられるのではないということでした。でもそれ以外は五里霧中で、その頃の私にとって終末期医療とは、見渡しても何もない、はるかに広がる海のただ中を、何が正解なのか分からないまま泳いでいく、そんなイメージでした。

――本の中で、果てしなく「何もない海」を怖いといったのは、森山さんでしたね。大人になると怖いものの話はあまりしないので、とても印象的でした。私たちが決して伺い知ることができない死の世界、誰もがそこに向かっているのに日ごろは無頓着で、私もハッと気づいたときには、何もない海の真ん中を漂っているのかもしれないと。
佐々 
 『エンジェルフライト』も『紙つなげ!』にも、たくさんの死者が出てくるのですが、私はそれまで自分の身に置き換えて、死を怖いと実感することはありませんでした。だからこそ、森山さんのように死の怖さを受け止めて生きている人の言葉が心に響いたのでしょうね。森山さんのノートに差し込まれたカレンダーのことを書きましたが。

――縮小コピーしたカレンダーに、赤い丸印がぎっしりつけられていて、患者を看取った日が記されているということでしたね。
佐々 
 週に二、三人、多い時は五人を見送る現場で、森山さんは死というものをどう感じて生きてきたのか。私は死を目前にしたときに何を思うのか。向かうべき場所が分からないまま、海を渡らなければいけないのか。そのようなことを、森山さんの「何もない海」が怖いという話から、考えていまし
た。
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この記事の中でご紹介した本
エンド・オブ・ライフ/集英社インターナショナル
エンド・オブ・ライフ
著 者:佐々 涼子
出版社:集英社インターナショナル
「エンド・オブ・ライフ」は以下からご購入できます
「エンド・オブ・ライフ」出版社のホームページはこちら
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