連載 批評の移り変わり  ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 146|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く
更新日:2020年3月23日 / 新聞掲載日:2020年3月20日(第3332号)

連載 批評の移り変わり  ジャン・ドゥーシェ氏に聞く 146

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1980年代中頃撮影
JD 
 ロメールの言葉を今紹介してくれました。「バザンには考えはあったが趣味はなかった。私たちには趣味はあったが考えはなかった」。それは事実です。バザンには、どの映画がいいのかはわからなかった。彼が分析で用いた作品は、彼の言いたいことに相応しいものではなかった。彼が行ないたかったのは「映画とは何か」という考察であって、映画が好きなわけではなかった。彼の考えを発展させたのは、私たちです。
HK 
 その意味で『カイエ』の批評は、時代と共にあることが重要だったのですよね。そして、その態度がある時期まで続いたのだと思います。おそらくリヴェットがそのような面を引き継いで、ドゥーシェさんは作品分析の方に向かうことになったのではないでしょうか。シネクラブで活躍し始めたのが、純粋な分析へと向かった理由の一つのはずです。
JD 
 リヴェットとは誰のことでしょうか。私はそのような人は知りません。
HK 
 (笑)。いずれにせよ僕の考えでは、面白い批評とは、どこかで普遍的なものがあるということです。時代の中にいながらも、その時代について書くだけではない。ディドロ、ボードレール、バザン、パゾリーニなどの批評は、独特の哲学があり、今でも読み応えがあります。
JD 
 彼らは偉大な作家でもありました。ですから、面白い批評を書いていても不思議ではありません。要するに、芸術家には二つタイプがあるのです。多くの画家たちのようにして感じたものを直感的に表現する芸術家と、自身の考えに基づいて表現する芸術家です。当然、考えを持った人々も優れた感性がなければ、偉大な芸術家にはなりません。画家たちも表現できるだけの考えを持っていなければいけません。
HK 
 ドゥーシェさんは、ご自身については、どのように思われていますか。作品制作へと向かおうとは思わなかったのでしょうか。
JD 
 私も何本か映画を作っています。テレビから注文された作品です。その他にも短編も何本か作っています。
HK 
 ロメールやシャブロルのように、自分の好きな映画を作りたいとは思わなかったのでしょうか。
JD 
 それは、私がありとあらゆる芸術を、心の底から尊敬しているからです。おそらく私も、そこそこの映画作家になっていたかもしれません。しかし、ゴダールのような本当に偉大な映画作家にはなれていなかったと思います。
HK 
 ドゥーシェさんの分析方法が他の批評家と異なるのは、いくつか理由があると思います。まず大きな違いとして、「あの作品のここがよかった。この作品はそのような理由でよくない」のように格付けすることはありません。
JD 
 そのような批評は、本当の批評家のものではありません。自分にしか関心のない人による批評です。彼らの関心にあるのは、自分のことだけなのです。ある作品を見ながら「私はこのようなものが好きだから優れた作品である」もしくは「私はそのような要素が好きではないから優れた作品ではない」という言葉を繰り返すだけです。作品と向き合うことがない。自分の考えを他人に押し付けることにしか関心がないのです。
HK 
 出された料理に塩胡椒をかけるような態度と言えるかもしれませんね。
JD 
 それです。つまり、料理を食べてみて、自分の好みでなければ塩をかけて、好みの味にしようとするのです。私は、そのようなことはしません。給仕されたものを味わうようにしています。もし作品が悪いものであるならば、作った人が悪いのです。画家を例にしましょう。マネの絵を見るとします。絵の中には身なりのいい紳士がおり、横には女性がいます。見たところ女性は裸であり、娼婦のようです。その女性の描かれ方が、当時の人々の反感を買いました。娼婦はありふれたものでありながらも、ブルジョワ達は、娼婦をサロンで目にしたくなかったのです。「良識を持った」人々は、マネの絵がいかにして不道徳であるかを語るだけで満足していたのです。マネの絵自体を見ること、同時にその絵のまわりに広がる世界を見ることはなかったのです。自分の小さな世界の外には出たくなかったのです。

   〈次号へつづく〉
(聞き手=久保宏樹/写真提供=シネマテーク・ブルゴーニュ)
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