第一六二回令和元年下半期芥川龍之介賞  「芥川賞について話をしよう」第十七弾  対談=小谷野敦*倉本さおり|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2020年3月22日 / 新聞掲載日:2020年3月20日(第3332号)

第一六二回令和元年下半期芥川龍之介賞
「芥川賞について話をしよう」第十七弾
対談=小谷野敦*倉本さおり

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第5回
老人性マジックリアリズム/可愛がられキャラ
■古川真人『背高泡立草』(集英社)

倉本 
 さて、今回の受賞作となった古川真人さんの『背高泡立草』の話をしましょう。一族が所有する納屋の周りにはびこる雑草をみんなで刈るというシンプルなプロットに、その周縁をめぐる、時代の異なる他者のエピソードが複層的に挿入されていく。どちらかというと世間的な評価の高い『縫わんばならん』や『四時過ぎの船』より、『ラッコの家』と『背高泡立草』の方が私は好きです。
小谷野 
 いや、『ラッコの家』に較べたら『背高泡立草』はガクンと落ちますね。『ラッコの家』は、最後にボケていくところがいいんです。
倉本 
 え! じゃあ『ラッコの家』は小谷野さんも意外に評価されていたんですね。前回この対談でそんなことはおっしゃっていなかったのでてっきりお嫌いなのかと。
小谷野 
 嫌いというほどではないんだけれど積極的に推すほどではなかったんです。老人がボケていくという話は、筒井康隆が『敵』で書いている。好き嫌いというよりも、『背高泡立草』はひどくないですか。
倉本 
 うーん、むしろ古川さんの場合、言われた課題をきちんとこなしてきて選評でのあの言われようはちょっとひどいなと。あんな、いかにも〝やれやれ〟みたいな感じで賞を与える空気にしなくてもいいんじゃないかと思いました。今回の作品で何が良いかと思ったかというと、これまでと同様に、しかも同一の「家族」をモチーフにしながら、その単一なイメージを更新していくようなエピソードがかなり意識的に取り込まれていた点。そのたくらみは評価したいと思ったんです。
小谷野 
 この人はこの先こんなふうに書き続ける人なんですかね。
倉本 
 芥川賞ギプスが取れた後はちゃんと書けるんじゃないかなと思いました。私は中学生の少年のカヌーのエピソードが大好きで。「きさん、ぜったいぶっ殺す!」みたいな感じで父親に歯向うものの返り討ちにされてしまうような少年が、学校へ行くことの代わりに父親からカヌーを買い与えられる。そこで父の愛とかビッグダディ的な安直な結末に流れていかないところに作者の明確な意志を感じて。松浦寿輝さんの「彼は結局はただわけもわからぬまま書いているように見える」という選評がありましたが、そのエピソードに関しては、既存の家族主義を解体していく方向に機能することを意図して取り込んでいるんだろうなと。あと、例えば終戦直後のエピソードで、帰還船が難破して救助された朝鮮人の男が土間で分配された芋粥をさじで掬って見知らぬ子どもの口に入れるシーンも、描写の塩梅というか距離感がちょうど良くて。一場面でも二場面でも、こんなふうにずっと考え続けられる場面を描ける作家というのはそれだけで強みがあるのではないかと。
小谷野 
 みんな古川君には優しいですよね。豊﨑由美がどうせ獲れないのになんで何度も候補にするんだみたいなことを言っていたけど結局獲ったし、今から考えるとすごく恵まれた人で、みんなに可愛がられるキャラなんだなと。可愛がられますよ、あんなにぽちゃぽちゃして白豚みたいで。
倉本 
 古川さんは喋ると面白くて、生まれる時代を間違えたんじゃないかと思うような、昭和の文士キャラっぽいところがあるんですよね。『縫わんばならん』『四時過ぎの船』に関していえば、老人性マジックリアリズムとも呼ぶべき文章がほんとうにすばらしくて。そこを突き詰めてほしいと思っていたから『ラッコの家』はやりきった感があってすごく良かった。だから今日は小谷野さんの口から『ラッコの家』を評価していると聞けたことがいちばん嬉しかったです(笑)。
(おわり)
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この記事の中でご紹介した本
幼な子の聖戦/集英社
幼な子の聖戦
著 者:木村 友祐
出版社:集英社
「幼な子の聖戦」は以下からご購入できます
最高の任務/講談社
最高の任務
著 者:乗代 雄介
出版社:講談社
「最高の任務」は以下からご購入できます
デッドライン/新潮社
デッドライン
著 者:千葉 雅也
出版社:新潮社
「デッドライン」は以下からご購入できます
音に聞く/ 文藝春秋
音に聞く
著 者:髙尾 長良
出版社: 文藝春秋
「音に聞く」は以下からご購入できます
背高泡立草/集英社
背高泡立草
著 者:古川 真人
出版社:集英社
「背高泡立草」は以下からご購入できます
「背高泡立草」出版社のホームページはこちら
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