評伝 竹内好 その思想と生涯 書評|黒川 みどり(有志舎 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

  1. 読書人トップ
  2. 書評
  3. 読書人紙面掲載 書評
  4. 学問・人文
  5. 哲学・思想
  6. 評伝 竹内好 その思想と生涯の書評
読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年3月28日 / 新聞掲載日:2020年3月27日(第3333号)

評伝 竹内好 その思想と生涯 書評
挑戦的で野心的な試み
思想を運動として展開した知識人として描く

評伝 竹内好 その思想と生涯
著 者:黒川 みどり、山田 智
出版社:有志舎
このエントリーをはてなブックマークに追加
 竹内好を論じる著作は近年でも数多く出版されている。本書の著者である黒川みどり・山田智両氏も、編著『竹内好とその時代』を出版したばかりである。その中で本書の特色は、「評伝」というスタイルにある。なぜ評伝としたかについては、本書のあとがきに山田智氏の説明がある。竹内を直接知らない世代にとっては、「時代の空気感」が壁となって、竹内の思想の理解が難しくなっていると指摘し、理解を深めるために竹内の歴史を整理したという。つまり評伝といっても、竹内の生涯を描き出すことが目的ではなく、彼の思想を理解するために、思想が生み出されたコンテクストを明らかにしようとしたものである。

この姿勢が挑戦的なのは、竹内好の思想のエッセンスを直接的に取り出すのではなく、彼がどのような状況に対して、いかにして思想を練り上げようとしたかのプロセスに重点をおいた点にある。言いかえるならば、本書における竹内好は、深遠なる思想を語った思想家ではなく、思想を運動として展開した知識人とされている。その姿勢を端的に示すのは、竹内好を「永久革命」論者としたことであろう。永久革命は、竹内の文脈では、彼の最初の代表作である『魯迅』に現れる。竹内によれば、魯迅は孫文に永遠の革命をみたという。永遠の革命とは、革命の成功に満足することなく、不断に変革を求め続けることで、それこそが真の革命であると、竹内は魯迅の孫文観に即して論じた。本書の興味深いところは、竹内が魯迅の思想として論じたことを、竹内自身の思想にしたことである。竹内は魯迅を切り口にして中国近代の歩みを永遠の革命と考えたが、本書はそれを竹内に返して、竹内の思想を、不断の変革を追求する運動ととらえた。

その視点から、たとえば戦中の竹内の中国体験の細部を明らかにした。彼が兵士として従軍した湖南の地形や産業の様子を実地に即して整理したところは、本書の白眉の一つであろう。竹内好の中国体験が具体的かつ立体的になった。また労働組合運動、部落解放運動、さらには思想の科学など社会的な活動に参加した実相も明らかにされた。さらに竹内の近くにいた人々の議論を参照することで、竹内がどのような言論空間において、いかなる現実活動を行ったかを浮かび上がらせた。安保闘争における竹内の活動を、竹内の全体像に即してまとめたことも興味深い。安保闘争前後における竹内と周囲の人々の行動および言論と結びつけることで、安保闘争そのものを中心とした視角からでは見逃されがちな当時の竹内の意図を重層的に示した。

本書がこの試みた評伝は、いわば竹内好を理解するために、竹内が書いていないことを補足する試みである。もちろん、どのポイントに注目するかは、著者の視点による。本書は野心的な竹内好の評伝ではあるが、必ずしも唯一の評伝ではない。むしろ竹内の思想を論じるための、竹内の言葉を借りるならば、「方法としての評伝」というべきものであろう。
この記事の中でご紹介した本
評伝 竹内好 その思想と生涯/有志舎
評伝 竹内好 その思想と生涯
著 者:黒川 みどり、山田 智
出版社:有志舎
「評伝 竹内好 その思想と生涯」は以下からご購入できます
「評伝 竹内好 その思想と生涯」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
鈴木 将久 氏の関連記事
黒川 みどり 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
学問・人文 > 哲学・思想関連記事
哲学・思想の関連記事をもっと見る >