人類はなぜ〈神〉を生み出したのか? 書評|レザー・アスラン(文藝春秋)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年3月28日 / 新聞掲載日:2020年3月27日(第3333号)

人類はなぜ〈神〉を生み出したのか? 書評
「人間の脳は〈神〉を人格化せずにはいられない」ことと向かい合う

人類はなぜ〈神〉を生み出したのか?
著 者:レザー・アスラン
翻訳者:白須 英子
解説者:池上 彰
出版社:文藝春秋
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 認知宗教学は日本ではまだ馴染みが薄い。だが欧米では一九九〇年代あたりから兆した研究分野である。進化論、認知科学、脳神経科学などの分野で議論されていることを積極的に採り入れている。宗教否定の匂いを感じる人もいるが、そういうわけではない。

ただし、教学、神学、宗学の類の土俵には乗らない。著者のアスランも「私は〈神〉が存在するか、しないかを証明することには興味がない。なぜなら、そのどちらの証拠も存在しないからだ」と述べている。

アスランは「人間の脳は〈神〉を人格化せずにはいられない」ことと向かい合う。人間がなぜ神を生み出したかは、認知宗教学にとってもっとも中心的となる研究テーマの一つである。

ただ本書の要は、認知宗教学的立場を考慮しつつも、自身の信仰を顧みる視点が一貫しているところにある。

アスランはイラン生まれだが、一九七九年のイスラム革命時に幼くして米国に移り、そこで育っている。ハーバード大学で神学を学び、カリフォルニア大学サンタ・バーバラ校で宗教社会学の学位を得ている。幼いときはむろんイスラム教徒であった。米国で育つうちキリスト教徒になった。しかしやがてイスラム教のスーフィズムに関心を抱くようになる。こうした自身の信仰上の変遷と、人類の歴史における〈神〉の捉え方の変遷とは、彼の脳内にあるニューロンのネットワークにおいて、おそらく複雑に交錯している。

神のさまざまな描かれ方については、中期旧石器時代の洞窟壁画から検討を始める。HADD(過敏な動作主探知装置)、「心の理論」、といった概念や、パスカル・ボイヤーが言うところの「いつまでも残る」ような信仰についての議論にも言及する。いずれも認知宗教学において注目されている。

神の概念の変遷については、狩猟採取時代は狩猟の神々だったが、それが農耕時代に大きく変質し、「生贄としてささげられた神」という概念が生まれたとする。神殿、法、特権、祭司、組織化された宗教の出現も農耕時代になってからとする。そして文字の発明が「神々を私たち自身のイメージにある姿にしたいという無意識で内在的な願望を意識化した」と述べる。

紀元前一一〇〇年頃ゾロアスターにより一神教が導入されて以後の一神教をめぐる議論になると、ヘブライ語聖書(旧約聖書)、新約聖書、コーランの記述を引用しつつ、細かな検討がなされる。

一神教と一括されても、実は内部では激しい議論があったことに言及するが、このあたりでは、宗教史的な研究が多く参照されている。神を人格的な存在として捉えようとすると、論理的にも、認知的にも無理が生じるということも論じる。そしてアスラン自身が辿り着くのが、スーフィズムに見られる汎神論的な神の捉え方である。

欧米における認知宗教学は、一神教、そして人格神の観念が、思考を窮屈にしてきたことを自覚し、より広い視点からの神概念の検討がなされてきている。一神教が支配的ではない日本の宗教環境のせいか、日本人研究者には、その切実さが分かりにくいかもしれない。認知科学や脳神経科学などの衝撃はさほど感じられていないように見受けられるからである。

原理主義的なキリスト教徒やイスラム教徒にとっては、進化論は受け入れられない。しかし近代日本ではすんなり受け入れられた。こうした柔軟さは、日本の宗教研究にも利点としても作用しているが、他面では弱点にもなりうる。それは新しく登場した研究視点が携えている衝撃を、見過ごしやすくなるということである。アスランの議論には、信仰上の苦闘も絡まっている。そこまでの想像が必要になる。

なお本書には、本文の半分以上に及ぶかなりの量の原注がある。この原注に本書における議論の背景や、参考にすべき学説の主なものが紹介されている。グローバルな視野から二十一世紀の宗教研究がどう展開していくかに関心を抱いている人にとっては、ぜひとも読んで考えてほしい書である。
この記事の中でご紹介した本
人類はなぜ〈神〉を生み出したのか?/文藝春秋
人類はなぜ〈神〉を生み出したのか?
著 者:レザー・アスラン
翻訳者:白須 英子
解説者:池上 彰
出版社:文藝春秋
「人類はなぜ〈神〉を生み出したのか?」は以下からご購入できます
「人類はなぜ〈神〉を生み出したのか?」出版社のホームページはこちら
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