炭鉱と美術 旧産炭地における美術活動の変遷 書評|國盛 麻衣佳(九州大学出版会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年3月28日 / 新聞掲載日:2020年3月27日(第3333号)

炭鉱と美術 旧産炭地における美術活動の変遷 書評
今なお尽きない炭鉱の文化資源の鉱脈
炭鉱をとりまく美術活動を重要視した労著

炭鉱と美術 旧産炭地における美術活動の変遷
著 者:國盛 麻衣佳
出版社:九州大学出版会
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 炭鉱と美術、と言えば、二〇一一年にユネスコ記憶遺産に登録され、一躍注目を浴びた山本作兵衛の「炭坑記録画」を思い浮かべる人が多いだろう。しかし作兵衛だけではなく、油彩画、日本画、版画、彫刻、そして写真やポスター、映画など数多くの豊穣な表現が石炭産業の文化活動から生み出された。二〇〇九年に目黒区美術館で開催された「′文化′資源としての〈炭鉱〉展」は、「美術」の枠で捉えられていなかったそれらの表現を「文化資源」として再考する先駆的な展覧会であった。美術館に隣接する区民ギャラリーに、川俣正の「コールマイン・プロジェクト」のインスタレーションが設置されたことも印象に残っている。過去の表現だけでなく、産業が衰退した地域の記憶を呼び起こし、社会的課題と対峙する現在進行形の方法論としての美術の可能性が提示されていた。

それから十年が経過して登場した本書は、日本各地における炭鉱の歴史から、戦後のサークル運動をはじめとする文化活動の展開を体系的にまとめ、近年のアートプロジェクトの事例まで網羅した労著である。巻末の炭鉱・美術関係者へのインタビュー記録も充実している。

著者は、福岡県大牟田市出身の芸術家。大学院の博士論文をもとにしており、とりわけ旧産炭地におけるアートプロジェクトの実践報告は、研究者でありながら表現者でもある著者ならではの特徴的な展開と言える。

「美術」を主題に掲げた研究書でありながら、視覚資料の掲載があまり多くないのは、著者の関心が、炭鉱表象の歴史よりも、産炭地における美術活動そのものに寄せられていることが理由だろう。おそらく本書の現代的な意味はそこにある。旧産炭地以外の地域の今後にも、重要な示唆を与えると思われる。日本の近代化に貢献し、その後の産業構造の変化とともに切り捨てられていった旧産炭地は、人口減や産業衰退の「先進」地域でもあるからだ。

本書で重要視されている美術活動――一九九〇年代以降のアートプロジェクトは、かならずしも地域に観光客を増やし、「経済効果」をもたらすことを目的とするものではない。むしろ、隠蔽されがちな負の遺産も含めて、忘れかけていた記憶を掘り起こし、出会いなおす方法論である。一見地味に見えるかもしれないその試みは、狭い意味での「美術」の枠を超えて、地域の歴史や生活文化と重層的につながり、人びとの暮らしに根ざした、したたかなまなざしを育んでいくだろう。経済優先主義の終焉の、その先の時代を豊かに生き抜き、そして何ごとかを豊かに閉じていくために。過去の灯は未来を照らす。炭鉱の文化資源の鉱脈は、今もまだ尽きていない。
この記事の中でご紹介した本
炭鉱と美術 旧産炭地における美術活動の変遷/九州大学出版会
炭鉱と美術 旧産炭地における美術活動の変遷
著 者:國盛 麻衣佳
出版社:九州大学出版会
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