中国 統治のジレンマ 中央・地方関係の変容と未完の再集権 書評|磯部 靖(慶應義塾大学出版会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年3月28日 / 新聞掲載日:2020年3月27日(第3333号)

中国 統治のジレンマ 中央・地方関係の変容と未完の再集権 書評
中国の複雑な内部差異を複雑なまま扱う
じっくり読みこむことで得られる知見

中国 統治のジレンマ 中央・地方関係の変容と未完の再集権
著 者:磯部 靖
出版社:慶應義塾大学出版会
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 学術書を学者の独占物にするのは惜しいと思うことがある。とはいえ、論述の形式や手続きに一定の厳格さが求められる学術書には、無味乾燥とした取っ付きにくさがつきまとう。読み手を議論の中に上手に誘う評論の類とは趣がだいぶ異なるものである。本書はまさにその好例かもしれない。

論壇において中国を扱う場合、複雑な中国の内部差異については捨象してしまうことが多い。あたかも、北京の政界だけで中国政治は評価が可能であるかに見えてしまう。社会主義政党の集中的な意思決定システムの印象は、内部差異について触れた場合でも、「中央による抑圧」として片づけられてしまいがちだ。

本書は固定化された「抑圧―被抑圧」の関係において「中央―地方」の関係を捉えることに疑義を提出している。具体的には、「中央が強くなれば地方が弱くなり、その逆もまた然り」とするゼロサム関係から「中央―地方」関係を見ることへの批判を本書から強く感じ取ることができる。そして、この批判を支えるのが、「中央」という一枚岩など存在しないという視点であろう。

一般に「中央集権」といえば、地方が持つ権力を中央に回収するという意味になりやすい。いったい回収されるのは中央のどこなのかについて専門家以外が関心を持つことは多くないはずだ。特に日本における中国の印象とは、強大な権力を持つ中央の印象がぬぐえない。昨今そうした意味で中央の典型のように扱われているのが習近平ではないだろうか。

ところが本書では、その習近平が分権を進めていることを紹介している。それは、中国における「中央集権」が結局のところ、中央の各官庁への集権に終始しやすいことが背景にある。中央から地方への紐付き補助金が増えると、それは官庁ごとの縦割り行政を強化するだけであり、権力が中央官庁に回収されることにはなっても、必ずしも中央それ自体に回収されるわけではないのだ。

アクチュアルな読み方に沿わせるのであれば、習近平の「剛腕」が持つ意味もまた、本書を通じて複線化されていくことになろう。「虎も蝿もともに叩く」のスローガンに象徴される全国一斉の大規模な腐敗取り締まりの強化もまた、「独裁化」の言説にのみ回収してしまうと、見るべきものが見えなくなることを本書から教えられる。官僚主義的な縦割り構造の打破は、日本においても到底他人事ではあるまい。

内部差異はさらに貧困の問題系に合流している。偏在する富を困窮した地域にも享受させるためには、地方の決定権が中央に譲渡されるべき時もある。「頑張った分報われる」の言説は、そもそも報われようがない地域や人びとにとっては恐ろしく残酷に響くものでもある。

本書は以上のように、複雑な内部差異を複雑なまま扱っており、読み終えるまでに骨は折れるかもしれないが、二度三度読んでいくうちに、論壇からは得られない知見を得られると感じてくる。じっくり読んでみてはいかがだろうか。
この記事の中でご紹介した本
中国 統治のジレンマ  中央・地方関係の変容と未完の再集権/慶應義塾大学出版会
中国 統治のジレンマ 中央・地方関係の変容と未完の再集権
著 者:磯部 靖
出版社:慶應義塾大学出版会
「中国 統治のジレンマ 中央・地方関係の変容と未完の再集権」は以下からご購入できます
「中国 統治のジレンマ 中央・地方関係の変容と未完の再集権」出版社のホームページはこちら
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