キネマ/新聞/カフェー  大部屋俳優・斎藤雷太郎と『土曜日』の時代 書評|中村 勝(ヘウレーカ)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年3月28日 / 新聞掲載日:2020年3月27日(第3333号)

キネマ/新聞/カフェー  大部屋俳優・斎藤雷太郎と『土曜日』の時代 書評
いっぷうかわった反体制派言論人の評伝
『土曜日』をとりまく卓見と当時の状況

キネマ/新聞/カフェー  大部屋俳優・斎藤雷太郎と『土曜日』の時代
著 者:中村 勝
編集者:井上 史
出版社:ヘウレーカ
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 権力の横暴をきらった新聞人や出版人は、おおぜいいる。ためしに、ジャーナリズム史の本を、ひもといてほしい。体制にはむかった言論人が、つぎからつぎへと、たいていの本では紹介されている。

この本が取り上げた斎藤雷太郎も、そのうちのひとりにほかならない。現代史にくわしい人なら、名前を聞けば、すぐに想い出すだろう。一九三〇年代なかばに、京都で『土曜日』という新聞を刊行した。戦争へとむかう時勢に、草の根からあらがいつづけたあの斎藤だな、と。

ただ、本書の主人公である雷太郎には、いっぷうかわったところがあった。権力にはむかう精神のよりどころが、反体制派言論人一般のそれとは、かさならない。晩年のインタビューでは、おおむねつぎのようなことを言っている。

権力は、その持ち主を腐敗させる。だが、そのことをとがめるつもりはない。自分だって権力を持てば、ろくなことをしないだろう。女遊びでうつつをぬかすようになると思う。問題は、そうして腐敗した者たちが、名誉まで求めるところにある。これが、まわりの人びとに、とんでもない迷惑をかける。ゆるせないのは、そこである、と。

腐敗そのものを問いただす禁欲精神は、いだいていない。倫理的であろうとする多くの反体制派とは、そこがちがっている。

『土曜日』を発行した雷太郎は、当時の左翼的な知識人たちに、原稿を依頼した。執筆をたのまれた論客らは、しばしば難解な述語を濫用する。これらを、しかし雷太郎はうけつけない。わかりやすい言葉、庶民でものみこめる文章への変更を要請した。のみならず、場合によってはそれらを、自分の手で書きなおしてもいる。

学歴は小学校中退という雷太郎のこだわりが、そこにはあったろう。のみならず、雷太郎は『土曜日』が経営的になりたつこともねがっていた。じじつ、黒字を勝ちとってもいる。読者を近づけない難解文は、その点でもいやがられたにちがいない。あるいは、腐敗した権力者がほしがる名誉にも似た尊大さを、かぎとったのだろうか。

『土曜日』は鴨川ぞいの商店から、広告をとっている。その範囲は、雷太郎が自転車で営業をしてまわれるエリアに、おさまる。著者によるこの指摘は、するどい。文化地理学的な卓見だと思う。

今のべたエリアに点在する喫茶店は、しばしば『土曜日』を、来店者にもちかえらせた。それはタウン誌のさきがけめいた役目も、になっている。時局に背をむける、一種のカルティエ・ラタンが、この地域にはなりたっていた。そこをえがきだしてくれた著者には、喝采を送りたい。

雷太郎は、いくつかの芸名をもつ俳優でもあった。『土曜日』をだしたころには、松竹下加茂撮影所に籍をおいている。背景となる映画界の状況説明も、読みごたえがある。戦前の映画史マニアには、たまらないプレゼントとなろう。田中淳一郎の『日本映画発達史』とは対立する資料の発見も、おもしろい。

著者の中村勝は、晩年の雷太郎に取材をこころみる。関連資料もほりおこしつつ、一九八四年に、その評伝を『京都新聞』へ書きつづけた。これは、当時の連載を著者の没後に、知友たちがあつまりまとめあげた一冊である。
この記事の中でご紹介した本
キネマ/新聞/カフェー  大部屋俳優・斎藤雷太郎と『土曜日』の時代/ヘウレーカ
キネマ/新聞/カフェー  大部屋俳優・斎藤雷太郎と『土曜日』の時代
著 者:中村 勝
編集者:井上 史
出版社:ヘウレーカ
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