誰も必要としていないかもしれない、映画の可能性のために 制作・教育・批評 書評| 諏訪 敦彦(フィルムアート社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2020年4月3日 / 新聞掲載日:2020年4月3日(第3334号)

誰も必要としていないかもしれない、映画の可能性のために 制作・教育・批評 書評
「開かれた映画」のための貴重な思考と実践の軌跡

誰も必要としていないかもしれない、映画の可能性のために 制作・教育・批評
著 者: 諏訪 敦彦
出版社:フィルムアート社
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本書を手に取る読者――それも映画を愛する人々にとっては、いささかドキリとさせられるタイトルだ。

著者は、『M/OTHER』『不完全なふたり』などの作品で、国内外で高く評価されてきた映画監督。現在、劇場公開中の最新作『風の電話』でも、ベルリン国際映画祭で国際審査員特別賞を受賞したことはまだ記憶に新しい。また、著者は(彼の世代の映画人の多くがそうであるように)鋭利な映画批評の書き手としても知られており、さらに、芸術系大学から子ども向けの民間ワークショップにいたるまで、長年にわたって映画教育活動にも積極的に携わってきた。

五〇〇頁に迫る本書は、実に多彩な領域で活動を続けてきた著者による初の単著にふさわしく、副題通り、映画をめぐる制作・教育・批評に跨がるさまざまなテキストが収録されている。映画と出会った一〇代から現在までの歩みを振り返る長大な書き下ろしの序章を筆頭に、個々の監督作に関するインタビューや対談、映画評やエッセイ、さらには東京造形大学学長時代に学生たちに贈った式辞まで、折々に記された文章が六章構成でまとめられ、最終章には諏訪作品を代表するキャスト、スタッフである西島秀俊や三浦友和、カロリーヌ・シャンプティエらの貴重なインタビューやエッセイも加えられている。諏訪映画に魅了されてきたファンにとっては、その創作や思考のプロセスが窺い知れる充実した一冊だ。

とはいえ、ここで重要なのは、本書が著者の作る映画と実によく似ていることだ。それゆえに、「それは、いくら私が喋ろうとも、本当の私ではないからであり、私が話したとしても作品の謎は消えはしないという確信があるからだ」と著者自身が記す通り、本書は(通常の書物のように)その内容をいわば著者の独白を聞くようにして読もうとする私たちの意識に絶えず再考を迫ってくる。

著者は、監督デビュー以来、脚本を用意せず、俳優やスタッフたちとの絶え間ないディスカッションによって作品を作るという世界でも稀に見る独特のスタイルを貫いてきた。その姿勢は、脚本や監督が特権的に統御する通常の映画作りの自明性を鋭く問い直す。それゆえに、著者の作る映画では、一方で俳優や過去の名作といった著者にとっての「他者」、また他方で家族や夫婦、老人と子ども、あるいは日本人とフランス人といった無数の「他者」同士の対話の(不)可能性がつねに主題になってきた。そのことは、「デュオ」「OTHER」といったタイトル中にある言葉からも窺われる。つまり著者にとっては、「私」や「あなた」はそれ自体では(ここでも著者の代表作の言葉を借りれば)「不完全」なものであり、両者の不断の議論の中で、ある映画ははじめて独白から「対話」になり、「誰かの映画ではなく、私たちの映画」になっていく(その意味で、著者の仕事は優れて「教育的」である)。

そして、本書のやや挑発的なタイトルには、それが冠されたエッセイで記されるように、まさに私たちを取り巻く今日の映画や世界が、必ずしもそうなっていないのではないかという著者の危機感と、いくばくかの期待がこめられている。「私は、どのような社会が望ましいのかと自分に問うとき、王の君臨する社会であると答えたくない。皆が多様に対話する社会の可能性を求めたいし、自らの映画作りにおいて、映画が本来持っていたはずの開かれた可能性を模索してゆきたい」。

そして以上の認識は、私たち読者を相手とした本書でも変わらない。これは私の独白ではない、本を通じて一緒に語り合おう、それでこそ映画と世界は本当に「我らのもの」になる――著者は私たちに、そう力強く語りかける。(わたなべ・だいすけ=批評家・映画史研究者・跡見学園女子大学文学部専任講師)

★すわ・のぶひろ=映画監督・東京藝術大学大学院映像研究科教授。映画作品に『M/OTHER』(第五十二回カンヌ国際映画祭・国際批評家連盟賞受賞)、『不完全なふたり』(第五十八回ロカルノ国際映画祭・審査員特別賞と国際芸術映画評論連盟賞)など。一九六〇年生。
この記事の中でご紹介した本
誰も必要としていないかもしれない、映画の可能性のために 制作・教育・批評/フィルムアート社
誰も必要としていないかもしれない、映画の可能性のために 制作・教育・批評
著 者: 諏訪 敦彦
出版社:フィルムアート社
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