天国に行きたかったヒットマン 書評|ヨナス・ヨナソン(西村書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年1月13日 / 新聞掲載日:2017年1月13日(第3172号)

天国に行きたかったヒットマン 書評
クールさ漂うブラック・ジョークの傑作
腕のいい殺し屋がキリスト教に目覚めたら

天国に行きたかったヒットマン
出版社:西村書店
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近年、北欧ミステリが邦訳されるのは珍しいことではなくなった。スティーグ・ラーソン〈ミレニアム〉シリーズが本国スウェーデンで刊行され始めたのは二〇〇五年。その一作目は『ドラゴン・タトゥーの女』という邦題で二〇〇八年に翻訳出版された。ユッジ・エーズラ・オールスン〈特捜部Q〉シリーズも人気を博している。デンマークの作品だ。

元々さかのぼればアメリカのエドガー・アラン・ポーによる短篇「モルグ街の殺人」が雑誌発表されたのは一八八一年である。イギスのコナン・ドイルは一八八七年に『緋色の研究』でシャーロック・ホームズを登場させた。当然これらは邦訳され、その後はアガサ・クリスティー、エラリイ・クイーンなど主に英米の作家が日本で好まれていたのだった。しかし長い歳月を経て、他国のミステリも注目を集めるようになった。

さて本書『天国へ行きたかったヒットマン』はスウェーデン発のクライム・コメディだ。謎解きを主眼にしている作品ではないのでこれをミステリと捉えない読者は少なくないかもしれない。しかしながら、広義のミステリ、という呼び方は今や出版界、あるいは読者のあいだで定着してもいる。犯罪を描いたエンターテインメントであればミステリ、という捉え方をする人もいるのだ。それに則れば本作は殺し屋たちが次々と登場し、アクション・シーンに迫力がある犯罪小説で、冒頭に挙げた北欧ミステリの仲間に入るとも言える。

作者は二〇〇九年に刊行したデビュー長篇で笑いを追求する作家として知られるようになった。日本では『窓から逃げた100歳老人』という邦題で訳された。一九六一年生まれで、四十代後半に小説の世界へ進出したというのは決して早いデビューとは言えないが、着実にファンを増やしている。

そういう作家なので、今回の本書もかなりの出来栄えだ。腕のいい殺し屋がキリスト教に目覚める、という設定がそもそも面白い。刑務所に長く服役していた経験はもちろんあって、つまりは悪人だった。しかし宿泊先に決めたホテルで女性の元牧師に出会い、影響を受けていく。今までの悪行を反省し、聖書に読みふける。この元牧師と恋人になるホテルの従業員がかなりの曲者だ。殺し屋のヨハン・アンデンション、通称ヒットマンを教祖に仕立て上げ、信者たちの寄付で金儲けをしようと企む。しかもヒットマンが暴力の依頼を受けたときに受け取った金を自分たちのものにし、おかげで裏社会の犯罪者たちに命を狙われることになる。

私たちはおおむね、小説、映画、漫画などのフィクションを食べ物と同じように習慣的に好む。人の死や暴力を扱った物語はお馴染みだ。それをシリアスに描く作品は多いが、本作の場合はギャグに転化している。どうしてそうできているのか。ここでヒントになるのが、今は仏教関係の専門家になっている哲学者・梅原猛がかつて一九七二年に出した『笑いの構造』という本である。既成の価値を低下させることが笑いを生み出す大きな要因だと書いている。私たちは死を恐れ、宗教に敬意を抱く。どちらも人生における大きな関心事で、その点で価値を持つのだけれど、作者は殺し屋を教祖に、元牧師を悪だくみの首謀者にして、その価値を無価値にしているのだ。笑わせつつ、かなり痛烈な皮肉を展開している。その点で死や宗教をからかうクールさが漂うブラック・ジョークの傑作と言える。(中村久里子訳)
この記事の中でご紹介した本
天国に行きたかったヒットマン/西村書店
天国に行きたかったヒットマン
著 者:ヨナス・ヨナソン
出版社:西村書店
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