中国古典詩の双璧、李白と杜甫の全容を伝える 向嶋成美編著『李白と杜甫の事典』(大修館書店)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2020年4月3日 / 新聞掲載日:2020年4月3日(第3334号)

中国古典詩の双璧、李白と杜甫の全容を伝える
向嶋成美編著『李白と杜甫の事典』(大修館書店)刊行を機に

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大修館書店より向嶋成美編著『李白と杜甫の事典』が刊行された。中国の古典詩を代表する李白と杜甫、その人気は日本でも未だ衰えない。本事典は二大詩人の総合事典となり、二五〇篇を超える詩文の解説を中心に、李杜の生涯にも迫る。今回は執筆者を代表して坂口三樹、加固理一郎、安立典世の三氏に刊行の意義や活用について、また中国文学者の川合康三氏に本書の推薦を寄せてもらった。(編集部)
第1回
十九年の歳月を閲して刊行――研究の進展に伴う新しい成果を盛り込んで:坂口三樹

「李白の旅」の項(本書より)
『李白と杜甫の事典』編纂のための最初の会合がもたれたのは、二〇〇〇年三月のことであったと記憶する。当時、大修館書店では、江連隆著『論語と孔子の事典』(一九九六年)と松浦友久編著『漢詩の事典』(一九九九年)が刊行されており、本書もそれに続く事典シリーズの一冊として企画されたのであった。出版社としては、遅くとも五年ほどでの刊行を予定していたのではないかと思うが、それが十九年もかかろうとは、その時の会合につどった誰一人として思い設けぬことであった。いまさらながら出版社に対して申し訳なく思うとともに、その歳月の長さ・重さに茫然とする。

しかし、刊行までに長い時間を要したことは、本書にとって悪いことばかりではなかった。研究の進展に伴う新しい成果を盛り込むことも、また可能となったからである。私の担当した杜甫についていえば、二〇一二年の生誕千三百年を契機として、中国では蕭滌非主編『杜甫全集校注』全十二冊(人民文学出版社、二〇一四年)や謝思煒校注『杜甫集校注』全七冊(中国古典文学叢書・上海古籍出版社、二〇一五年)といった大冊が相次いで現れ、日本でも下定雅弘・松原朗編『杜甫全詩訳注』全四冊(講談社学術文庫、二〇一六年)が出版されるなど、新たな研究成果が陸続として公刊された。杜甫の伝記に関しても、注目すべきいくつかの論考が発表されて見直しが進んだ。本書の「杜甫の生涯」では、そうした新しい説を可能な限り紹介することに努めている。例えば、杜甫が成都を離れた経緯について、従来は庇護者であった友人の厳武が亡くなって生活の支えを失ったためと説明されてきたが、近年、中国の陳尚君氏によって、杜甫が蜀を去ったのは検校工部員外郎任官の知らせに応じるためであって、厳武の死去はその離蜀後であるとする新説が提示された。また、最初の任官である右衛率府兵曹参軍就任の経緯や華州司功参軍辞職の理由についても、有力な新説が提出されている。本書ではそれらの異説についても、できる限り文献名を挙げて紹介しておいた。これから杜甫研究を志す若い学部生・院生諸君の参考になればと願ってのことである。

本書の中心をなすのは、李杜それぞれの代表作に訳注・解説を施した「詩の世界」である。この部分は、執筆者各自が関心の有り様に従って自由に執筆したが、私がその執筆にあたって心がけたのは、古漢語の用法を踏まえた注解を施すことであった。というのは、本書の重要な読者として想定されているのが、中学・高校で国語を担当されている先生方だからである。現在、教育現場では、中国古典学を専攻した教員が稀少となっていると聞く。古漢語で書かれている漢文の中でも、とりわけ詩の表現は漢語の特性を究極まで洗練させることによって成り立っている。それゆえ古漢語に対する知識なしには、作品の十全な理解はおぼつかない。語注および解説では、中国古典学を専門としない先生方に、作品を理解するために必要な古漢語の知識をいかに平易に説明するかに腐心した。時に専門的な文献を示して解説しているのも、先生方自身がさらに古漢語について調べる際の一助になればとの配慮からである。なお、一句の字数に制約のある詩においては、特に助字に込められた微妙なニュアンスをどう理解するかが極めて重要になる。本書の「李白と杜甫を読むために」の「李杜詩の助字 用例解説」は、そうした助字の用法と意味について概説したもので、個々の作品中において助字がどう機能しているかを具体的に説明している語注・解説と相補的な関係にある。併せてご参照いただければ、詩の表現に対する理解はより深まるであろう。

「言うは易く行うは難し」で、右に述べた意図がどれだけ達成できているかは読者の判断に委ねるほかないが、十九年もの歳月を閲してようやく刊行された本書が広く江湖の読者に迎えられるならば、執筆者の一人としてこれに過ぎる喜びはない。(さかぐち・みき=文教大学教授・中国文学)
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この記事の中でご紹介した本
李白と杜甫の事典/大修館書店
李白と杜甫の事典
編者:向嶋 成美
出版社:大修館書店
「李白と杜甫の事典」は以下からご購入できます
「李白と杜甫の事典」出版社のホームページはこちら
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