線は、僕を描く 書評|砥上 裕將(講談社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2020年4月3日 / 新聞掲載日:2020年4月3日(第3334号)

挑戦と失敗を楽しむ水墨の線

線は、僕を描く
著 者:砥上 裕將
出版社:講談社
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線は、僕を描く(砥上 裕將)講談社
線は、僕を描く
砥上 裕將
講談社
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大学生の青山君が、絵画の飾りつけアルバイトをするところから始まる青春小説であり、水墨画家である著者による水墨画の解説書でもある。

アルバイトは親友からお願いされた、簡単な絵画の飾りつけの現場指揮。ところが現場は肉体労働で、他の学生は逃げ出してしまう。そんな現場で、作業後に豪華な弁当を食べさせてくれる明るく不思議な老人と出会う。一緒に弁当を食べ、飾りつけが終わった会場で見たのは水墨画だった。特に目を惹かれたのは、花や草木の絵で、初めて目にする水墨画だった。著者 は、「真っ白い画面の中に封じ込められた花や草木は、ほかには何もないからこそ花のみずみずしさや、草木の生命感を表しているように思えた」と表現する。

老人と一緒にさまざまな絵を見て回りながら、何もない場所にポツンと何かがあるという感覚が身近にあることを感じた青山君は、なぜそう感じるのかと尋ねる老人に、真っ白になってしまった経験があると伝える。

青山君は、17歳の時に事故で両親を亡くし、突然の大きな変化に対応できなくなった。孤独で、ガラス張りの真っ白な壁の内側に閉じこもるようになる。大学に通うことになり、叔父の家を出て独り暮らしを始め、本当に独りぼっちだった。孤独から抜け出すように通い始めた大学で新しい関係もでき始める。いがぐり頭にサングラスの古前君と、喫茶店でアルバイトをしている同じゼミでしっかり者の岸川さん、この二人が「大学生」と「水墨」を繋いでいく。

出会った老人が、日本を代表する水墨画家篠田湖山と分かった時には、先生は青山君を内弟子にすることを決めていた。

後日遊びに行った湖山先生のアトリエで、とにかくやってみることが目的と筆を持たされ線を描く。先生のお手本をまねるだけだったが、何度も失敗しても繰り返し線を描くことが思いのほか楽しく感じてきた。挑戦と失敗を繰り返すことを楽しみながら水墨に取り組んでいく。湖山先生だけでなく、湖山門下の西濱さん、斉藤さん、先生の孫で翌年の湖山賞で戦うことになってしまった千瑛。湖山も一目置く翠山先生が水墨を語り、その教えを真っ白な状態で受け入れていく。水墨画の最終課題を終えた時に、孤独だった大学1年生の青山君は、もう独りではなかった。湖山先生が水墨で青山君に伝えたかったことは、先生も師匠に教えられたことだった。最終課題は菊を描く。描く者が自分で描き方を見出すというもの。青山君はどう描いたのか。

著者は、水墨画家である。本書で描かれる水墨画は丁寧に表現され、その場で絵を見ているような感覚になる。読み終わって、水墨画が気になって仕方なくなった。
この記事の中でご紹介した本
線は、僕を描く/講談社
線は、僕を描く
著 者:砥上 裕將
出版社:講談社
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