貸本マンガと戦後の風景 書評|高野 慎三(論創社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年1月13日 / 新聞掲載日:2017年1月13日(第3172号)

貸本マンガと戦後の風景 書評
自らの体験を交えつつ貸本マンガの時代的意味を戦後状況に結びつけ回顧

貸本マンガと戦後の風景
出版社:論創社
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日本のマンガ文化は、これまでさまざまな形でその歴史が記述されてきた。近年では少女マンガの歴史にも注目が集まりつつある。しかし、その実態がよく見えず、また評論対象になりにくいのが、戦後の赤本マンガと貸本マンガの世界である。

著者の高野氏は、貸本マンガを中心に論評してきた評論家。マンガ誌『ガロ』の編集に携わった経験ももつ。自らの貸本マンガ体験を交えつつ、その時代的な意味を、戦後状況に結びつけ回顧したのが今回の本だ。

高野氏は一九四〇年生れ。貸本マンガの流行は、一九五三年から六八、九年までというから、少年期、青年期を通じてその読者だったことになる。六〇年代に入り、貸本マンガは青年向けに内実をシフト。そうした時期に深く関わりあってきた。

そのため一部のマンガ家、劇画作家を、とりわけ高く評価。白土三平、つげ忠男、つげ義春、平田弘史、水木しげる、佐藤まさあきなどに、多数のページが費やされている。

ただし高野氏は、それらの作品を、リアルタイムで感情移入し読み継いできたわけではない。むしろ、対象とされた作品や作家は、のちに注目、再評価されたものの方が多い。

このように、ふたつの視点が本文の記述には重なりあう。青年時代の実体験と、後日自覚的に読み進めた経験とが、二重映しになっている。そうしたアプローチが、自分史の枠を越えて、時代との相関を冷静に探ろうという確かなバランスを生み出している。

そのため人によっては、自らの体験を胸にして読むと、がっかりするかもしれない。ある種の偏りを感じるかもしれない。

かく言う私は、高野氏とひとまわり下。大阪市の東住吉区で、一九五〇年代末からほぼ五、六年貸本屋に通った経験をもつ。当時の体験はこの本でふれられている内容とは少し違う。東光堂、研文社、金龍出版社など、大阪の出版社による単行本や、中央の児童雑誌が新刊のまま並べられていたりしていた。地域に大きく左右されるのだと、あらためて感じいった次第。

ともあれ、貸本マンガという戦後の特殊な文化を、戦後の貧しい庶民の生活感覚と結びつけて論じる手つきは、著者ならではのもの。戦記マンガからユーモアもの、バレーマンガにまで目配りし、読者を飽きさせない。 

また、自らが通った貸本屋の様子が、手にとるように記録されているのもいい。その地域や雰囲気がよくわかる。

近年、欧米のホラーコミックや、当時起こった悪書追放運動の具体的な動きも、他の評論家や研究者により、次第に明らかにされつつある。そうした成果とつきあわせて読みすすめると、なおいっそうこの本が輝きを増すにちがいない。
この記事の中でご紹介した本
貸本マンガと戦後の風景/論創社
貸本マンガと戦後の風景
著 者:高野 慎三
出版社:論創社
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