スノーデン・ショック 書評|デイヴィッド・ライアン(岩波書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読写 一枚の写真から
更新日:2016年6月24日 / 新聞掲載日:2016年6月24日(第3145号)

ディストピアに生きる我々
急速に監視社会が進むこの国の姿をも描く

スノーデン・ショック
出版社:岩波書店
このエントリーをはてなブックマークに追加
二〇一三年、エドワード・スノーデンが暴露したアメリカ国家安全保障会議(NSA)による監視活動の実態は世界に衝撃をもたらした。NSAは敵国政府の活動のみならず、同盟国や自国の政治家、そして一般市民をも監視のターゲットにしているというのだ。それまでにも同種の警告はあったが、監視機関の内部で働いていたスノーデンの発言は、彼自身がもち出した大量の機密文書に裏づけられたものだけに説得力があった。

スノーデンの警告は一部の人びとの危機感を募らせた。しかし、社会全体としては無関心のまま事態が推移してきたように見える。問題は、ほとんどの人がいまだに監視を古いイメージ、つまり特定の疑惑や標的に対する捜査の一環としてとらえていることにある。本書を読めば、そうした理解がたんに誤りであるだけではなく、危険ですらあることがわかるだろう。

著者は携帯電話を「個人追跡装置」と呼ぶ。それを持ち歩くだけで、知らないうちに監視のネットワークに参加していることをいったいどれだけの人が意識しているだろう。電源さえ入っていれば、携帯電話は居場所のデータを送信し続ける。そこでは、通話の〈内容〉が問題なのではない。通話をする〈行為〉そのものが監視の対象となる。誰と誰が何時どこで会話をしているかが分かれば個人や集団のプロファイリングが可能となるからだ。

膨大な量の個人データは監視機関が張りめぐらすデータ網に補足され、情報が創出される。大量監視が政府の「通常業務」の一部になっていることに加えて、さらに危機的なのは、そこにおいて権力と資本の癒着が生じていることだ。ライアンによると「ビッグデータは商業と政治の利害の合流を象徴」するもので、「国家安全保障は政治的目標であると同じくらいにビジネスの目標であり、監視活動の世界においては両者の間に回転ドアがある。」

フェイスブックやツイッターやブログを通して我々が日々発信するデータが、監視機関によって「再利用」される仕組みがある現状では、個人のプライバシーなど無きに等しい。ライアンは、プライバシーを「人権」というより広い文脈で捉えることを提唱する。監視機関によるデータ管理は、まさに「民主主義や人間の尊厳に対する挑戦」なのである。

本来なら政府の暴走に歯止めをかけるべきメディアもその役割を果たせていない。スノーデンが公表した機密文書は、「ジャーナリストや記者らは安全への潜在的脅威だ」と決めつけている。アメリカ政府は報道機関の締め付けを強化し、それが結果的にメディアの自主規制につながっている。オーウェルは『一九八四年』のなかで「ビッグブラザー」に支配される暗い社会を描き出した。しかし、「ビッグデータ」に管理される今、我々は彼が予見したディストピアより、さらに暗い時代に生きている。

では、何がこのような事態を招いたのだろうか。それについてもライアンは明解な答えを用意している。九・一一以降、「安全」が最優先されるようになった。そこにおいて「公共の利益」のために法が一時的に停止した状態――アガンベンがいう例外状況――が生まれ、それが現在も続いている。それ自体は曖昧な「安全」が最優先される風潮が政治を凌駕しているとライアンは警告を発する。

姿の見えない敵への「怯え」は監視を正当化してしまう。その危険性を指摘されながらも、フェイスブックやツイッターは我々の日常生活の一部になっている。パソコンを起動させた瞬間から監視ネットワークに参加していることに、ほとんどの人は危機感を抱かない。ライアンは、このような状況を「監視文化」という言葉で説明する。我々は今や「自分の個人情報をオンライン上の公の場に進んで共有することにより自分自身の監視に参画している」というわけだ。

本書の議論は主としてアメリカ社会を念頭においている。しかし、本書が描き出すディストピアの風景は、急速に監視社会化が進むこの国の姿でもある。(田島泰彦・大塚一美・新津久美子訳)
この記事の中でご紹介した本
スノーデン・ショック/岩波書店
スノーデン・ショック
著 者:デイヴィッド・ライアン
出版社:岩波書店
「スノーデン・ショック」は以下からご購入できます
このエントリーをはてなブックマークに追加
田仲 康博 氏の関連記事
読写 一枚の写真からのその他の記事
読写 一枚の写真からをもっと見る >