教皇フランシスコ キリストとともに燃えて――偉大なる改革者の人と思想 書評|オースティン・アイヴァリー(明石書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2016年6月24日 / 新聞掲載日:2016年6月24日(第3145号)

教皇フランシスコ キリストとともに燃えて――偉大なる改革者の人と思想 書評
カトリック教会の〈救世主〉 異教間に理解の橋を架け、国際情勢に積極関与

教皇フランシスコ キリストとともに燃えて――偉大なる改革者の人と思想
出版社:明石書店
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今を去る五二四年前の一四九二年一〇月一二日、スペイン国王の許可の下、インド洋を目指し西回りで航海を続けていたクリストーバル・コロン(コロンブス)はカリブ海の島に漂着した。これが「旧世界」の欧州人による「新世界」(アメリカ大陸)への「最初の到達」と位置づけられてきた。スペインは、この栄光の日を長らく「イスパニダー(スペイン性)の日」として祝っていた。だが、この日はローマカトリックが新世界に強引に植え付けられた日でもある。先住民族は改宗を拒否すれば、その場で殺されかねなかったのだ。以来五世紀余り、教皇庁(ヴァティカン)の二〇一三年の統計では、全世界のカトリック教徒は一二億五四〇〇万人(世界人口の一七・七%)で、その四九%は米州(南北両米大陸およびカリブ海)が占める。そして米州の中ではラテンアメリカ(ラ米)が圧倒的に多い。米州に次ぐ欧州は二二・九%だが、ごくわずかな例外を除き欧州人の教皇が十数世紀も君臨していた。教皇を選び、かつ教皇に選ばれる資格を持つ枢機卿たちの中には米州、特にラ米から教皇を選ぶのが民主的と考える者がいて、その声は年々高まっていた。司祭の未成年者への性的虐待事件が世界各地で相次ぎ、カトリック教会全体が猛省を促されて久しいが、そうした信仰の危機や、米国生まれの新教系宗派の台頭・浸透で、カトリック教会は危機感を抱いてきた。そのような状況の下、〈救世主〉として二〇一三年三月に選ばれたアルゼンチン人イエズス会士ホルヘ・ベルゴリオが現教皇フランシスコ(現在八〇歳)だ。もちろんアメリカ人(米州人)として初めての教皇である。

本書を読めば、なぜこの人物がカトリック教会の最高指導者に抜擢されたかがよくわかる。言わば〈最後の切り札〉だったのだ。だがベルゴリオは教会の頂点に立つまでに、様々な試練を乗り越えなければならなかった。その最大の難関は、三万二〇〇〇人の市民が殺された軍事独裁政権期(一九七六~八三)だった。ベルゴリオは司祭の立場を生かし、放置すれば殺される人々を匿い、国外に逃がした。悲観も楽観もせず前方にひたすら向かうベルゴリオは、神の深遠な理想を抱きながら極めて現実的、実践的に自身の人生を操ってきた。軍政最高幹部に通じる人脈を持つかと思えば、文豪ホルヘ=ルイス・ボルヘス(一八九九~一九八六)とも知己だった。教皇になるや、ギリシャ正教、ロシア正教、英国教会、イスラム教、ユダヤ教など異なる宗派の最高指導者に歩み寄り、相互理解と友好の橋を架けた。偏見を持たず相手を理解しようと努める教皇の真摯な姿勢が相手の心を開くのだ。

地中海で難渋する難民の救済活動にも見られるように、教皇は生の国際情勢にも積極的に関与している。資本主義の総本山・米国と社会主義キューバとの間で半世紀余り展開されていた米州の頑迷な冷戦に終止符を打つべく関係正常化のための秘密交渉を側面援助し、今また、南米に残る最後の冷戦構造であるコロンビア内戦を終わらせるため、同国政府とゲリラ組織が続けている和平交渉を支援している。世界最大のカトリック国ブラジルの労働者党政権の大統領ヂウマ・ルセフが五月一二日、財界や富裕層を中心とする伝統的支配階層と腐敗まみれの国会議員集団が共謀して決行した「弾劾」という名のクーデターで停職に追い遣られ政権から切り離された事件は記憶に新しい。弾劾に賛成票を投じた議員の多くは「神のために」と叫び投票、「神」を大安売りした。この政変に心を痛める教皇は、ブラジルに向けて「祈りと対話をもって和合と平和の道を進んでほしい」と呼び掛けた。米国政財界とラ米保守・右翼勢力は今や、大産油国ベネズエラの石油資源を狙ってマドゥーロ左翼政権に打倒工作を仕掛けている。教皇は同国にも「公共の福利のため対話と協調を」と訴えた。

国際社会の最重要当事者の一人であり、世界平和構築に意識的に取り組んでいる教皇フランシスコの思想と人間性を本書によって知ることになれば、国際情勢を読み解く上で欠かせない新しい視座が開けるだろう。多くの人々に読んでほしい労作だ。(宮崎修二訳)
この記事の中でご紹介した本
教皇フランシスコ キリストとともに燃えて――偉大なる改革者の人と思想/明石書店
教皇フランシスコ キリストとともに燃えて――偉大なる改革者の人と思想
著 者:オースティン・アイヴァリー
出版社:明石書店
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