群像新人文学賞受賞作品が芥川賞候補作にも選ばれた 「ジニのパズル」崔実(チェシル)氏に聞く|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2016年7月8日 / 新聞掲載日:2016年7月8日(第3147号)

群像新人文学賞受賞作品が芥川賞候補作にも選ばれた
「ジニのパズル」崔実(チェシル)氏に聞く

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今年の群像新人文学賞受賞作となった作品「ジニのパズル」は、今年前半の話題作の中の一作と言っていいだろう。

オレゴン州に住むステファニーという絵本作家の家にホームステイしているジニという少女が、自分が今ここにいるきっかけとなった中学1年生の時の出来事を回想し、そこで受けた大きな心の傷から回復していくスタイルをとったこの物語は、読者にある衝撃を持って迫ってくる。

一九九八年、日本の小学校に通っていた在日韓国人のジニは、中学生になって都内の朝鮮学校に通うようになるのだが、そこが自分の居場所であるという感覚はどうしても持てないまま日々を過ごし、やがて教室に飾られている金親子の肖像に対して正体がつかめない苛立ちを覚えるようになっていく。そして八月三十一日の夏休み最後の日、北朝鮮はテポドンミサイルを発射した。翌日の始業日、制服のチマ・チョゴリを着たジニは、池袋であまりにも理不尽な暴力に曝されて心に深い傷を負う。そして彼女は自分だけでなくすべての人が、自分たちを縛り付ける不合理なものから解放されるためにと、学校の中でたった一人で革命を起こそうと試みる。

全選考委員から絶賛に近い高評価を得たこの作品は、朝鮮学校に通う在日韓国人少女が主人公であるところに注目しがちだが、衝撃的でありながらも悩み多いたくさんの若い読者と共振するような普遍的な青春小説である。
「ジニのパズル」が芥川賞の候補作となったことが発表された6月20日当日、作者の崔実氏に群像新人文学賞に応募することとなった経緯と、作家としてスタートするこれからについて話を聞いた。

ジニのパズル(崔 実)講談社
ジニのパズル
崔 実
講談社
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 * * * 映画の専門学校に通っていた時に、仲間内で誰が何歳でデビューしているかを調べたら、村上春樹さんが29歳の時にデビュー作を書いて30歳で群像新人文学賞を受賞していることが分かって、じゃあ30歳までに世に出なかったら私たち本当に終りだねなんて笑っていたんです。去年、29歳の時にその会話を思い出して、20代までの自分に区切りをつけて、30歳からは別の新たな人生を歩きたいという気持ちがすごく強くなりました。30歳になるのを区切りに、それまでずっと溜め込んできた自分の中の怒りや悲しみや疑問などを吐き出さねばと思い、それがどんどん膨らんでいった結果ジニという主人公が生まれて、彼女を追いかけるかたちで書いていきました。

「群像」に応募したのは選ばれたいというよりむしろ、やりきったという実感が欲しかったからです。走り終えたと感じられる何か、自分が納得できる何かが欲しかったのだと思います。その時の私にとっての群像新人文学賞は、29年間の自分にさよならするためのゴールテープのようなものでした。一次選考も通らないだろうと考えていたので、受賞するなんて本当に思ってもみませんでした。

受賞の知らせを聞いて最初に思い浮かんだのは、ジニが精神病棟に入れられて「人生なんてのは、ただの悪い冗談だよ」と思ったように、これは冗談なんじゃないか、だとしたら本当に悪い冗談だな、ということでした。でも選評を読んだらすごく嬉しくなって、選考委員の皆さんへの感謝の気持ちでいっぱいになりました。選評を読みながら、ジニがステファニーに救われた時の気持ちってこんな感じだったのかなとも思いました。書いたものを第三者に読んでもらうことなど今までなかったし、それどころか読んでくれた人から言葉が返ってくるというのは初めての経験で、とても嬉しかった。

受賞の言葉で「この今世、作家として生き抜いてやりたい」と書きましたが、絶対にそうでなくてはいけないと思っています。たとえば今後私が書いていかなかったら、「群像」に応募した人たちに、「だったら最初から応募するんじゃないよ」と思われるでしょう。いつ陽の目を浴びるか分からないし、お金をあげると言われてもいないのに、遊びもせず飲まず食わずで書き続けて、やっぱり駄目だったときの辛さはすごくよく分かります。一八六四篇の応募作品の中から私が受賞したからには、絶対に背負わなくてはいけない責任だと感じています。どんどん作品を書き上げて、この人に負けたのだったら仕方がないと思ってもらえるところまで書かないと申し訳ないと思っています。

今後書いていきたい作品ですが、映画ではヒューマンドラマとファンタジーが特に好きなので、そういう作品もいつか書けたらいいなと考えています。そのためにもどんどん作品を書いて修業を重ねていきたいです。

今は自分の作品が書店に並ぶということにとにかくワクワクしています。「群像」で読んでくださった書店員の方の中で、「僕のあの頃持っていたピースを探しに行こう」という感想をくれた方がいて、それがとても嬉しかった。勇気が湧いて外に出ようとかもっと人と関わってみようと思ってもらえるような作品を届けられる作家になるのが自分の憧れだったので、その感想を読んで、ああ良かったと思えました。この作品は、今居場所がない人たちにも読んでほしい。私は学校というものに馴染めたことが一度もありませんが、そういう子はたくさんいると思うんです。いじめられたりのけ者にされても強くいられる子はめったにいません。そういう子供たちに手を差し伸べられるような作品、光が見つけられるような作品を書いていけたらいいなと思っています。
この記事の中でご紹介した本
ジニのパズル/講談社
ジニのパズル
著 者:崔 実
出版社:講談社
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