緊急寄稿=宇野重規 コロナ危機下の日本の政治へ|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2020年5月16日 / 新聞掲載日:2020年5月15日(第3339号)

緊急寄稿=宇野重規
コロナ危機下の日本の政治へ

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三月、四月、五月、一刻一刻、コロナウイルス禍と直面してきた。直接、生命に対するウイルスの脅威はもちろん、一斉休校や、「緊急事態宣言」を受けた経済活動や外出の自粛に、多くの人がこれまでの日常生活を送れなくなっている。生活に困窮する声も日を追って高まっている。五月四日には「緊急事態宣言」の五月末までの延長が発表された。今後仮に緊急事態が解除されても、ウイルスとの戦い、ウイルスに崩された社会や経済の立て直しには、長い時間がかかると言われている。新たな時代に私たちは押し込まれ、何もかもが模索中の現在だが、東京大学教授で政治思想史専門の宇野重規氏に、日本の現状と政治について、ご寄稿いただいた。私たちがこれから目を向けていくべきこと、考えるべきことは何か。その手がかりを与えていただいている。(編集部)
第1回
各国の政治を映し出すリトマス試験紙の役割

宇野 重規氏
新型コロナウイルス危機は、ある意味で、各国の政治を映し出すリトマス試験紙のような役割をはたしているのではないか。危機は、それぞれの国の本質的な部分を、弱い部分とともに露わにする。個人の権利を侵害してでも強権的な対応をする国、トップの思いつきで国民が振り回される国、社会保障費が急激に削減され医療体制が脆弱な国、格差が大きく国民の多くが貧困に苦しむ国、警察や軍の力が強い国もあれば、人々の生活をほとんどコントロールできない国もある。どの国の首脳も国民にメッセージを発するが、それぞれのスタイルや内容もまた、その国の政治を反映している。

日本はどうだろうか。日本は欧米諸国のようにロックダウン(都市封鎖)をするわけでもなければ、PCR検査を徹底し、感染者の行動を徹底的に追跡する韓国など、東アジア型の対応を取るわけでもない。独自なクラスター(感染者集団)対策に力を入れるとともに、「密閉・密集・密接」の三密をさけ、接触の八割削減を目指す。そして、緊急事態宣言を発して「自粛を要請」する。

ロックダウンのような強硬策を取らず、個人のプライバシーを大きく規制しないという意味では「ソフト」な対策であるが、その分、休業補償は遅れ、「自粛警察」の嵐が吹き荒れる副作用をもたらしている。とはいえ、対策が功を奏したのかはともかく、現状では死者の数が少ないという意味で、相対的には恵まれた状況にあると言えるだろう。

ロックダウンも徹底的なPCR検査もせず、それでいて感染による死者の爆発的増加を防いでいる日本は、世界から「謎」と呼ばれている。気候や生活習慣、さらにはBCG接種に至るまで、いろいろな説明が試みられているが、いまだ定説はない。

はっきりしているのは、日本政治の「質」だ。PCR検査が少ないのは、それまでの準備体制の不足もあるし、医療機関の負担を考えるとやむをえない部分もあるだろう。保健所での対応やクラスター対策によって、感染した可能性のある患者を絞り込み、貴重な検査能力を有効利用するという方針も理解できなくはない。それにしても、PCR検査をめぐる説明不足が検査に対する独特の消極性として受け取られ、感染症拡大の現状をめぐる疑心暗鬼の一因となっていることは間違いない。

これ以外にも基礎となるデータを十分に開示しないことが多く、結果として対策がしばしば一方的で唐突な印象を与えることにつながっている。決められた方針の内容や決定経緯をめぐる説明不足、およびそれを検証するためのデータ開示が十分でないという日本政治の通弊が、ここでも明らかになっていると言えるだろう。
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