自死: 現場から見える日本の風景 書評|瀬川 正仁(晶文社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2016年6月24日 / 新聞掲載日:2016年6月24日(第3145号)

自死: 現場から見える日本の風景 書評
この国の今をあぶり出す 「希望の創出」こそが重要だと主張

自死: 現場から見える日本の風景
出版社:晶文社
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2011年まで毎年3万人以上の人が、自死(自殺)を選んでいた。政府の政策が一部成果を上げて現在は2・5万人くらいに低下しているが、GDP世界第3位の豊かな国でありながら、自殺者数は先進国の中で日本は際だって多い。それはなぜだろうか? 疑問を抱いた著者が読者を様々な日本の風景に誘う。

学校におけるいじめ。過重労働による過労自死。精神疾患と向精神薬の乱用からくる自死。保険金による借金返済のための自死。高齢者の生活困窮による自死。ギャンブル依存からの借金による自死。そして福島原発事故によって生活の場を失った人の自死。

日本では自死を選んだ人間に対して非難の声が上がる。周囲の迷惑を考えない、身勝手で無責任な死であり、弱い人間の取る行為であると。その人が死を選ばざるを得なかった「それまでの苦しい生」に対して優しい眼差しが向けられることは少ない。宗教もそういう立場を取る。

しかし実際に自死するのは責任感の強い、真面目な人だ。そういう人ほど、強い精神的ストレスを抱えて追い詰められる。切腹という文化を持つ我が国では、自分を精算することで責任を果たそうとしているのかもしれない。だが、本書を読み進めていくと、自死は決してパーソナルな現象ではないと分かってくる。

日本の貧困率(貧富の格差)は今や世界第4位である。貧困は学歴を通じて再生産されるため、貧困は固定化されようとしている。つまり日本は希望のない社会へと変貌しつつある。なぜこうした社会になってしまったのだろうか。著者はその原因を、文明の発達それ自体が効率を追い求めすぎたからだと分析する。安易で効率のいい教育方法や医療のあり方は、いじめや薬漬けの医療につながる。そして効率のよさを最大限に追求したのが今の経済の姿だ。

現役時代に年収400万円の人が将来、「下流老人」になって生活に困窮する現実はあまりに悲しすぎる。社会保障制度が破綻しつつある我が国は、低負担・低福祉への道を進んでいる。こういう社会にあって自死の数を減らすのは極めて厳しいかもしれない。人口が減少し、少子超高齢化の時代に突入しながら、経済発展だけを目標に掲げるのはもはや無理がある。それに対して著者は「希望の創出」こそが重要だと主張する。本書は、自死という日本の影の一面を通して、この国の今の形をあぶり出すことに成功している。
この記事の中でご紹介した本
自死: 現場から見える日本の風景/晶文社
自死: 現場から見える日本の風景
著 者:瀬川 正仁
出版社:晶文社
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