チェルノブイリの嘘 書評|アラ・ヤロシンスカヤ(緑風出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2016年6月24日 / 新聞掲載日:2016年6月24日(第3145号)

チェルノブイリの嘘 書評
執拗に思い出すことを迫る
福島原発事故ともつながる状況

チェルノブイリの嘘
出版社:緑風出版
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読み始めて「おや?」と思った。『チェルノブイリの嘘』の原著は二〇一五年刊だが、書かれていることは以前に読んだ記憶がある……。一九九四年に和田あき子訳で邦訳刊行された『チェルノブイリ極秘』(平凡社)を横に置いてみると、序章、終章を含めた『嘘』の二三章のうち一六章は『極秘』を下敷きにしているとわかった。『極秘』の「第一部は、一九九一年に『わが内なるチェルノブイリ』という題名で出版されました」(「日本の読者へ」)とのことだから、そうやって積み重ねていく書き方をしているのだろうか。

余談だが、『極秘』の第二部は「極秘文書について一九九二年と一九九三年に発表した論文」だという。巻末の年表にも掲載日が明記されている。ところが、出版年は一九九二年とある。謎である。

ともあれ『極秘』から『嘘』までには二十数年の時間が流れているということだ。そこで、修正や追補などが行なわれている。低線量被曝の危険性を訴える根拠は、『極秘』ではもっぱらロシアのブルラコーワに頼っていたが、『嘘』では、一九九二年に「もうひとつのノーベル賞」と呼ばれるライト・ライブリフッド賞を共に受賞したアメリカのゴフマンらの言説を加えて強化されている。翻訳も、読みやすさと正確さのバランスがよくとれている。「放射能と放射線と単位について」と「放射能の影響と閾値について」の解説もありがたい。

それにしても圧倒されるのは、事故後の政治権力による情報管理・操作と、それにより放射能の危険の中に放置された住民の姿についてのこだわりの強さである。新たに書き加えられた各章も、事故から二五年の最新事情が挿入されているとはいえ、基本は『極秘』の時代になお固執している。

チェルノブイリ原発の地元であるウクライナのジトーミル州共産党機関紙の記者だったヤロシンスカヤは、編集長の意向に反して放射能に汚染された村の隠密取材を敢行、困難を乗り越えて州共産党批判の記事をソ連中央紙に発表する。ゴルバチョフによって宣言はされたが「この地方にはまだその兆しもなかった」グラースノスチ(情報公開)だけが被害者を救えると信じてのことだった。その後、彼女は連邦人民代議員、最高会議議員に選ばれることとなり、そこで接することのできた極秘書類を公にして情報管理・操作に大きな風穴を開ける。現在は、チェルノブイリの子どもたちを支援する「ヤロシンスカヤ慈善基金」の代表をしている。

近年、チェルノブイリ法に定められた事故被害者に対する支援措置が削減される動きが進んでいる。時の経過とともに大事なことが忘れられているからだとしてヤロシンスカヤは、執拗に思い出すことを迫るのだ。それは、福島原発事故の被害者たちがいま置かれている状況ともつながるし、『はんげんぱつ新聞』二〇一六年一月号での武藤類子福島原発告訴団団長の言葉とも重なっている。武藤団長は言う。「私たちは福島原発事故の被害者ですけれど、同じことを二度と起こさせない責任があると思うんです。自分たちは理不尽な被害にあったんだという意識を持ち続けていくのが大事です」。

だからこそのこだわりであり、結果として本書において「真実を隠蔽した党幹部や政治家の犯罪が証明されている。これだけでも欧州裁判所のような国際法廷に訴えるに充分である」ことに、読者は大きくうなずくだろう。最後に、ヤロシンスカヤは宣言する。「腐敗したウクライナの司法当局は、この犯罪を時効とした。しかし、人間性に反する犯罪に時効は存在しないのである」と。(村上茂樹訳)
この記事の中でご紹介した本
チェルノブイリの嘘/緑風出版
チェルノブイリの嘘
著 者:アラ・ヤロシンスカヤ
出版社:緑風出版
「チェルノブイリの嘘」は以下からご購入できます
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