戦後思想の光と影―日仏会館・戦後70年記念シンポジウムの記録 書評|三浦 信孝(風行社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2016年6月17日 / 新聞掲載日:2016年6月17日(第3144号)

戦後思想の光と影―日仏会館・戦後70年記念シンポジウムの記録 書評
鶴見俊輔にとっての戦争体験とは
たえず立ちもどりつづけたテーマ

戦後思想の光と影―日仏会館・戦後70年記念シンポジウムの記録
出版社:風行社
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この本は昨年7月に日仏会館でおこなわれた『戦後思想の光と影』というタイトルで戦後70年を問うシンポの全容である。内容は開会の辞に続いてⅠ「いま、なぜ日本の戦後思想か」、Ⅱ「憲法・平和・民主主義」、Ⅲ「ナショナリズムとウルトラナショナリズム」、Ⅳ「戦争と知識人」、Ⅴ「戦争体験と歴史記述」、Ⅵ「日本・アジア・アメリカ」というテーマのあとに「編者あとがき」と執筆者紹介が付いている。

ニコラ・モラールは開講の辞で丸山眞男や加藤周一による言説(リベラル左派の近代主義)が戦後思想の形成の上で、大きな貢献をしたことを確認し、その前提を踏え日仏会館は場所・背景・世代のさまざまな研究者が集って議論し、検証する場として有効な場だと語っている。

三浦信孝は巻頭で、この主題をなぜ問うのかの答として「日本の八〇年代の『現代思想』にインスピレーションを与えたのは、実はフランス『戦後思想』だった。言い換えれば、日本の『戦後思想』を支えた知識人たちはフランスの『ポスト近代』の思想家たちと同世代である」と裏側をみている。

またピエール・フランソワ・スイリは「なぜ日本の戦後思想を仏訳するか」で次のようにのべている。「われわれがそこで取りあげた著作の書き手たちとは、たとえば福沢諭吉や柳宗悦といった思想家であり、石橋湛山のようなジャーナリスト、吉野作造や矢内原忠雄のような大学を拠点とする学者、それに植木枝盛、金子文子、布施辰治、山川菊栄といった活動家たちです。……国家による紋切り型の言説に対して抵抗する、そういう主張がなされていたのだということです。かつての日本において、国家の帝国主義的な政治志向に対して反対を唱え、ノンを突きつける勇気を持った人たちに、いまいちど発言の機会を与えること」。この研究姿勢は示唆的である。

結核療養所での独学の成果である『日本の合理論』(現代思潮社、一九六一年)の視角からみると、最も知的関心をひくのは成田龍一の第3章「『戦後七〇年』のなかの戦後日本思想」、三浦信孝の第8章「戦後民主主義の分岐点に立つ丸山眞男と加藤周一」、ミカエル・リュケンの第11章「『現代思想』の基準と限界――中井正一をめぐって」、そしてマヤ・ドデスキーニの第14章「鶴見俊輔の『知識人の戦争責任』について」である。

第3章は「悔恨共同体」をめぐる論議が60年の安保闘争と、その後の高度成長以後に新しく起きた学生運動・市民運動によって体制を補完する「知」に転じた点が指摘されている。橋川文三の丸山眞男批判から始まる中島岳志の第10章も興味ぶかい。だが、私は中井正一をとりあげた第11章に強い関心をもっている。そこで中井におけるマルクス主義の鍵は「鶴見の指摘とは裏腹にレーニンの『一歩前進、二歩後退』に求めるべきではなく、むしろマルクスの『経済学哲学草稿』とレーニンの『哲学ノート』にこそ見いだすべき」だと記している。

最後に第14章は鶴見の「知識人の戦争責任」をとりあげ「戦争こそが、鶴見にとって主要な関心であり、彼が哲学者として、行動する知識人として歩むなかで、たえず立ちもどりつづけたテーマ」だとのべ、さらに「日米安保条約やベトナム戦争に反対し、憲法九条を守ろうとして鶴見がとった政治的な行動は、彼が信念を具体的な行動に移すことのできた人物であることを証明」すると高く評価した上で、これが「豊かな傷(トラウマ)」となって多彩な戦後思想に対する重要な寄与をした「哲学的作品」をうみだす契機となったと評している。

また反面で戦中の「知識人の責任」にふれて「受け身、臆病、偽善」の知識人が一五年戦争のあいだ抵抗しなかったことを非難し、鶴見は「一般の人びとの大半とは異なり、知識人は外国の文献についても知っており、さまざまな知的資源をもっていたはずで、それらは政府から距離をとるに十分なものだったはずだ」と、きびしく追求している。
この記事の中でご紹介した本
戦後思想の光と影―日仏会館・戦後70年記念シンポジウムの記録/風行社
戦後思想の光と影―日仏会館・戦後70年記念シンポジウムの記録
著 者:三浦 信孝
出版社:風行社
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