直虎と直政 書評|岳 真也(作品社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年1月20日 / 新聞掲載日:2017年1月20日(第3173号)

直虎と直政 書評
直に通ずるもの
徳川四天王の一人井伊直政の数奇な運命

直虎と直政
出版社:作品社
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直虎と直政(岳 真也)作品社
直虎と直政
岳 真也
作品社
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徳川四天王の一人、井伊直政の波瀾万丈な一代記である。四人の中でも、一番若いのが今回の主人公で、その生い立ちから家康の配下となる過程は、数奇な運命といえる。

数奇とは、不運と幸運が相互に連続することと言い換えてもよかろう。また、その主な要因は、不忠な家臣と好意ある味方が、その都度つづいて現れるということでもある。

十六世紀の前期、井伊家は戦国大名今川氏に仕える小領主(地頭)であった。そこに家老の小野親子が登場し、禍をなすことで直虎と直政が艱難辛苦を甘受し、紆余曲折な人生を歩まされることになるのである。

この一方、直政を助けるため養子とした直虎は、名こそ厳めしいが女性である。それがこの物語の最初の興味であろう。つまり、なぜ男風の名告りをしているかが、読者の興味を引き込むわけだ。

読み進むと、この男名が良くも悪くも井伊家の数奇さを象徴していると感じよう。

直政の父直親と直虎は、もともと許婚の関係であった。それは直虎の父直盛が、男児を授からなかったから、遠縁の直親と縁組みさせたのだ。しかし、それが家老の小野道高の気に入らなかったらしい。恐らくは息子道好を入り婿にさせたかったのであろう。

それゆえ直親の父直満が、武田方と内通していると讒言(誣告)したのだ。それを信じた今川義元に切腹を命じられるが、単純な義元の判断に、彼が桶狭間で破れる姿を読者は脳裏に描くはずだ。

だが、不運は直政の祖父が死んだことだけではない。父親(政親)が小野道高から執拗に命を付け狙われたことにもある。それゆえに、忠義な家老今村正実に連れられて信濃へ逃げ、そこで娶って直政が生まれたのだ。

著者岳真也は、ここまでの人間模様を、登場人物の祖先にまで遡って言及し、淡々と事実を紡いでいく。

なおも、これまでの戦国物と視点が変えられているのは、桶狭間の戦いを、負けた今川方の視野で描いていることだろう。読んでいるだけで、我々は矢弾が頬を掠める気分に陥る。信長に攻められる中で直盛(直虎の父)が討死する場面は、読者に立場の違いによる新鮮さを感じさせるだろう。

この過程で、直虎は直政を養子とする。

これまで徳川四天王を語る際は、大概が徳川家康の台頭とセットになっていた。その点この物語は、家康がまだ海の物とも山の物とも判らない時代のことで、さまざまな選択肢や葛藤の中から、彼らも必死に浮上してきたことが窺い知れる。直政も直虎の尽力で、家康の小姓になれたのだ。本能寺の変は家康を窮地に立たせたが、直政や他の家臣らは、切り抜けることで出世の糸口としていく。

直政はじめ、四天王が不動の呼び方をされるのは、小牧・長久手の戦い以降である。

逆に見れば、彼らに代わって武田家や今川家、北条家の没落が、下克上の悲哀を見せてくる。歴史の移ろいは虚構ではなく史実であることで、読者も身につまされよう。この作品は、そういった意味でも読み応えがある。

ただ、主要人物に通字の「直」が並んでいて、ただ文章を追っているだけでは、誰が誰やら判りにくく読み辛さがある。筆者はそこを慮り、目次裏に家系図を添付している。

読み手としてはそれを重宝し、拡大コピーを撮って四つ折りの栞にされよ。それを見ているだけでも、決して興味は尽きない。
この記事の中でご紹介した本
直虎と直政/作品社
直虎と直政
著 者:岳 真也
出版社:作品社
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