マラス 暴力に支配される少年たち 書評|工藤 律子(集英社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年1月27日 / 新聞掲載日:2017年1月27日(第3174号)

マラス 暴力に支配される少年たち 書評
自分のことを気に留めてほしい子ども達に寄り添う 必要なのは信頼できるおとなの支え

マラス 暴力に支配される少年たち
出版社:集英社
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書店を歩いていると、ときに本と目が合う。有楽町駅前の本屋の平台に、目を瞑った男の横顔があった。中米ホンジュラス生まれ、かつて強盗犯のギャングリーダー、今は牧師のアンジェロだ。まるで皆既食の始まった赤銅色の月がビル群の谷間から顔を出しているようだった。「どうしても読んでくれ」といわんばかりに。

著者の工藤律子はメキシコで貧困層の生活改善運動の研究をしていた。これがきっかけでストリートチルドレンの取材を始める。フォトジャーナリスト篠田有史とともに、その関わりは26年になる。夜の公園やバスターミナルなどで遅くまで子どもたちと話をしていると、「今度いつきてくれるの?」と尋ねられた。誰でもいい、子どもは自分のことを気に留めてほしいのだ。

極端な格差社会が深刻な貧困を生みだす。余裕を失くした親は、子どもを虐待する。家の中で居場所を失ない、家出をし、時に路上暮らしを選ぶ。「ろくな人間になれない」そんな子どもたちがギャング集団マラスへと誘われていく。

2014年の夏、著者はある新聞記事に目をひかれた。「中米から米国へ不法入国する子どもが急増している。メキシコよりさらに南の中米から、不法移民の子どもたちがやって来る。」その理由は、米国での経済的な豊かさや家族との再会を求めるのでもなかった。ギャング集団の暴力から逃れるために未成年者が一気に大勢移動してくる。前代未聞の話だ。

マラスの少年たちは根っからの悪党ではない。ごく普通の子どもや若者だった。彼らが求めていたのは、リスペクト。生きていることの実感だ。ギャングの仲間になれば、周りが畏敬の眼差しを送ってくれる。だが、そのリスペクトは、少年たちの勝手な思い込みにすぎない。自分をごまかし、台なしにしてしまう。子どもには、信頼できるおとなの支えが必要だ。いつでも側にいてくれる人、なんでも頼れる人、いざというときにきちんと話を聞いてくれる人が必要なのだ。

取材中、篠田と工藤は小休止、間をとる習慣を大切にしていた。壊れた垣根に囲まれたコンクリート造りの一軒家の戸口でコーラを一杯ごちそうになったり、刑務所内のインスタントコーヒー屋に行ったりする。筆者はあるネクタイデザイナーを思い出した。スナック菓子やチョコレートを買い、駅裏のゲームセンターに入り浸る子どもたちに会いにいく。「ねえ、食べなよ」おせっかいを焼くおばさまだ。まず、子どもの輪に割り込む。信じてもらえたら、次へ動く。子どもは安心できる相手がほしいのだ。まるで、自分だけの神さまがいつも隣にいるように。元ギャングだったアンジェロには、側に寄り添う神さまが現れた。本当の自分が見つかると子どもは自分で生き抜いていく。本書は第14回開高健ノンフィクション賞を受賞した。
この記事の中でご紹介した本
マラス 暴力に支配される少年たち/集英社
マラス 暴力に支配される少年たち
著 者:工藤 律子
出版社:集英社
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