在日二世の記憶 書評|小熊 英二(集英社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年2月3日 / 新聞掲載日:2017年2月3日(第3175号)

二世の人生航路をたどる 
そのまま日本の民衆史や文化史に重なる

在日二世の記憶
出版社:集英社
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二〇一六年六月五日。ヘイトスピーチ(憎悪表現)規制法が施行されて初めて神奈川県川崎市で行われた在日コリアンを攻撃対象にしたヘイトデモを現場で取材した。大勢の反対派と警備の警察官に囲まれたデモ隊は、反対派の阻止で一〇メートルも進めないまま中止に追い込まれた。同法制定を訴えてきた崔江以子さんは「絶望が希望で上書きされた」と涙声で語っていた。在日三世の彼女は、なぜ涙しなければならなかったのか。在日コリアンの社会について自分自身が余りに無知であることに気付かされた。

本書は、朝鮮半島が日本の植民地だった戦前に日本に渡って来た一世を親に持つ五〇人の二世の人生航路をたどる証言集である。

大半が日本生まれで、日本育ちという共通項はあるが、二世と言っても年齢は、八四歳から四九歳までのほぼ一世代。その航路はまさに五〇通りだ。書画家、会社経営者、大学教授、シンガー、劇作家・演出家、映画プロデューサーなど多彩だ。元プロ野球選手の張本勲氏といった著名人もいるが、日本人にとっては恐らく馴染みのない人物ばかりである。編者の〓賛侑氏は新しい分野を開拓してきた「在日のパイオニア」と表現する。

二世世代に共通して立ちはだかってきた一つは、日本人でないという理由による就職差別だ。編者の小熊英二氏は、五〇人の仕事について「履歴書がいらない職業」であり、「二昔前ぐらいのアメリカのユダヤ系の人たちの地位とよく似ている」とし、「見えてくるのは、日本の社会の周辺部に置かれた人たちの歴史だ」と分析する。在日二世とは、表現を変えれば、日本生まれ一世だ。その人生はそのまま日本の民衆史や文化史に重なることが証言から浮かび上がってくる。

もう一つは、成長に伴ってぶつかるアイデンティティの問題だ。大学教授の竹田青嗣氏は「日本人でないのは明らかなのに、朝鮮民族として生きたいわけでもない。どう決めるかの基準がどこにもない」と苦悩した過去を明かしている。そしていま、祖国は日本、国籍は韓国、民族は朝鮮と答えられるという。

NHKクローズアップ現代「ヘイトスピーチを問う」(二〇一五年一月放送)の冒頭で流れた、女子中学生が在日コリアンが多く住む大阪・鶴橋の路上で「いつまでも調子にのっとったら、鶴橋大虐殺を実行しますよ」と絶叫する光景に、肌寒さを覚えた記憶がある。調子にのっているのは、誰なのか。日本人こそ読むべき一冊である。(
この記事の中でご紹介した本
在日二世の記憶/集英社
在日二世の記憶
著 者:小熊 英二、コウ・チャニュウ、コウ・スミ
出版社:集英社
以下のオンライン書店でご購入できます
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