放浪・廻遊民と日本の近代 書評|長野 浩典(弦書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年2月3日 / 新聞掲載日:2017年2月3日(第3175号)

放浪・廻遊民と日本の近代 書評
近代の闇に葬られた漂白の民
当時の史料や証言をもとに克明に描く

放浪・廻遊民と日本の近代
出版社:弦書房
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昨今、ネット社会では弱者、異端な存在に対して凄まじいバッシングが浴びせられるようになった。その叩きまくる様は狂気の事態である。人はいつから異分子に対して非寛容になったのだろうか。

その問いに答えたのが本書である。本書は明治から昭和の時代に存在した九州の「廻遊民」という非定住者を描いたノンフィクションである。山の民であるサンカ、海に暮らす家船、乞食、そしてらい病者への不当な弾圧など、あまり学術的に取り組まれなかった分野を、近現代史を専門とする著者が、当時の史料や証言をもとに克明に描いている。さらに大分県別府市の「的ケ浜事件」にも深い考察を加えている。

本書を読むと非定住者への差別や排斥がどのように生まれ、なぜ凄まじくなったのか、異端児である彼らが存在を否定され、消えてしまったのかが明らかにされている。

サンカや家船には戸籍を持たない者もいた。しかしサンカは竹細工などを作り、平地の一般人と交易し、山々を移動しながら生活した。家船も漁に出て、その魚を女たちが九州や四国に行商していた。彼らは自立して生計を立てていたのである。

しかし日本の近代化が進むにつれ、彼らは卑賤視され、不当な圧力を受けることになる。それは「らい」に対しても同様であった。当時この病は遺伝する業病だと思われていた。そのため病を発症すると放浪するか、あるいは患者たちが集落を作って住むしかなかった。ここでは熊本市の本妙寺にあった集落を取り上げ、自治組織である集落が昭和15年に警察によって強制排除される事件を紹介している。

「的ケ浜事件」には、皇室との絡みも指摘されている。別府市は大正時代に日本で有数の温泉観光都市になった。その海辺の的ケ浜にはサンカ、らい病患者、貧民たちが集落を形成していた。だが大正11年に別府警察署は集落の十数軒を一方的に焼き払い、八十人の人々が住処を失ったという。十日後に皇族の来訪を控え、観光都市に汚く危険な場所があることはイメージダウンになるという理由だったようだ。

これらの弾圧の根には、国家の公衆衛生の政策があったことに著者は着目している。「清浄化」「消毒」の大義名分のもと、廻遊民を「不潔」の象徴として撲滅を図ったのである。

本書に登場する事例は過去の出来事である。だがその有り様は、現在のヘイトスピーチに通じる排他的な思想と何ら変わりない。奇しくも昨年のマイナンバー制度の導入で、国民は番号で管理された。それだけに著者の言葉は重い。

<国民の徹底監視・管理の方法は、日々深化しつづけるだろう。私たちは、そんな時代に生きていることを自覚すべきである>

このことはいっそう異端を認めない風土を形成する。その時期に本書が刊行された意義は大きい。私たちは閉塞しまくった現代をどう生きればよいか、人と人の歪みにどう向き合うか、本書に描かれた廻遊民の姿を通して、その手立てを掴むことも可能なのである。
この記事の中でご紹介した本
放浪・廻遊民と日本の近代/弦書房
放浪・廻遊民と日本の近代
著 者:長野 浩典
出版社:弦書房
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