近代オリンピックのヒーローとヒロイン 書評|池井 優(慶應義塾大学出版会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年2月17日 / 新聞掲載日:2017年2月17日(第3177号)

近代オリンピックのヒーローとヒロイン 書評
資料価値が極めて高い 
暗部や“宴のあと”にも触れている点に注目

近代オリンピックのヒーローとヒロイン
出版社:慶應義塾大学出版会
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アスリートにとって、オリンピック出場は究極の望みであろう。その上にメダリストになるのは、何ものにも代え難い喜びに違いない。

日本マラソン草分けの金栗四三から、三大会でメダルを獲得した競泳の北島康介まで、多彩なオリンピアンを取り上げて勝者と敗者の哀歓を鮮やかに描いている。マラソンのアベベ、体操のチャスラフスカら、なじみ深い外国人にもスポットを当てているが、その資料価値は極めて高い。

たぐい稀な資質に恵まれたアスリートの苦闘と栄光の足跡は、もちろんたっぷりと語られている。日本人初の金メダリストになった陸上三段跳びの織田幹雄も、「前畑がんばれ」の平泳ぎ前畑秀子も、平たんな道を歩んで栄冠をつかんだのではない。折れそうな気持をどう奮い立たせたかは十人十色。意志強固であると同時に、考える力で窮地を脱している点で共通しているように思える。

本書の題名から推して、スポーツの伝記ものによくある「ヒーロー賛歌」に終始しているのではないかと受け止められるかも知れない。だが、世界規模のお祭りの暗部や“宴のあと”にも触れているのに注目だ。

ナチス政権のもとに開かれた一九三六年のベルリン大会で、米国の黒人陸上選手オーエンスは男子百メートルなど四種目で金メダルを取った。だが、ヒトラーに祝福の握手を拒否され、帰国後も人種差別に苦しめられた。

「なせば成る」で名を上げた一九六四年東京大会女子バレーボール監督の大松博文は、四年後に参院選に出て当選。周囲が止めるのも振り切って二期目にも挑戦したが落選した。その後、鬱状態になった。バレーボール教室の仕事で立ち直ったが、七八年に五七歳の若さで亡くなった。

心温まる後日談もある。ストックホルム大会のマラソンで途中棄権した金栗四三は五五年後にスウェーデンに招かれ、まねごとのゴールイン。「タイムは五四年八か月六日五時間三二分二〇秒三」と場内アナウンスされた。棄権直後に介抱してくれた農家を、金栗のひ孫が訪れ交流したのもいい話だ。

開催地からの実況中継放送にまつわる秘話も興味深い。三二年ロス大会の馬術競技大障害で陸軍中尉の西竹一が優勝したが、当時のNHK取材陣には実況放送する用意がなかった。そこで、スタジオで競技の状態を再現する“実感放送”で済ませた。

同大会の水泳背泳ぎ百メートルで日本は清川正二、入江稔夫、河津憲太郎のトリオで金銀銅メダルを独占した。だが、これも米国内の放送事情により“実感放送”になった。今だと考えられない話である。

オリンピックは次第に肥大化して、商業大会化している。政治利用され、アスリート側にも薬物使用など、さまざまな問題が浮上している。その点を踏まえ、本書の続編「ヒーローとヒロインの光と影」が出版されないものかと思う。
この記事の中でご紹介した本
近代オリンピックのヒーローとヒロイン/慶應義塾大学出版会
近代オリンピックのヒーローとヒロイン
著 者:池井 優
出版社:慶應義塾大学出版会
以下のオンライン書店でご購入できます
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