山と過ごした一日 書評|萩生田 浩(西田書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2017年2月17日 / 新聞掲載日:2017年2月17日(第3177号)

山と過ごした一日 書評
登山の座右の教科書に 
山に同行したような錯覚に陥る

山と過ごした一日
出版社:西田書店
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本書を一読してたちどころに連想がはたらいた。登攀に至るまでの、山の道筋や自然描写が一枚の精緻な日本画を見るようで、まるで一日著者と山に同行したような錯覚に陥った。

著者は白図を常に携帯し、二万五千分の一の地形図でも通常の山では有用だが、小さな山歩きでは役に立たないことがよくあるとの指摘に、はっと思い当たった。登山中確かに今までにも現在地がつかめないことがよくあったからだ。

著者は白図をポケットに忍ばせて四色のボールペンを駆使して、主に藪山歩きを醍醐味としているという。まずはボールペンで登山口にだけ短く「山道」と書き込み、到着時間をメモする。山道は緑色、時刻は赤、見かけた花の名前や気がついたコメントは青のボールペンで記入し、四色のうち残り一色の黒は山道を書き間違えたときに塗りつぶす修正用に充てるという。藪山歩きに必要なものは他に地図や方位を指すコンパスである。

それにしても著者の登山歴もさることながら、個性のある山々の特徴を余すところなく描写していることには感心させられる。同行者の人物描写も登山中に出会った山ガールとの何気ない会話にも鋭い観察とユーモアのセンスが垣間見られる。登攀後、白図のメモ等をもとにエッセイを書かれておられるのだろう。

ここで評者の心を打った箇所を挙げておこう。守屋山に登山中峠に向かう道には標識もないため、尾根コースを下ることにした箇所である。――尾根コースに入ると、紅葉の中でも黄色い葉の多さが際立つようになった。山頂までの落葉松林の鈍い黄金色とは異なる透けるような黄色い葉が、目の前の灌木から頭上の梢にかけて大小とりどりの形で紅葉と交じり、彩りを競い合っている。雪を残していた朝の北向き斜面に比べ、南向きの山肌はまだ秋の盛りだった。――著者の山のエッセイストとしての恵まれた才能が、この箇所以外にも、そこここに異彩を放っている(例えば、「孤峰の春」など)。

著者の略歴からすると、地図編集会社の勤務を経てフリーとなり、その後地図の制作や登山ガイドブックの取材執筆に従事した経験が活かされたとしても、白図をもとに山についてこれだけのエッセイを紡ぐことができる著者に、思わず同じ登山を愛好する者として憧れと羨望の念をもってしまう。

私たちは十余年前に、大学の同級生四人を中心に山岳クラブ『望露会』を立ち上げ、原則として月一回の例会をもち、間もなく第百回目を迎える。メンバーは元商社員の強者と元高校の英語教員と元編集部員からなるが、第百回目を契機に、本書を登山の座右の「教科書」として再出発を図らなければならないと再認識した。
この記事の中でご紹介した本
山と過ごした一日/西田書店
山と過ごした一日
著 者:萩生田 浩
出版社:西田書店
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