ロッキング・オンの時代 書評|橘川 幸夫(晶文社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2017年2月17日 / 新聞掲載日:2017年2月17日(第3177号)

クオリティよりリアリティ 
ロック音楽抜きでもロックはできる

ロッキング・オンの時代
出版社:晶文社
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本書は、渋谷陽一・岩谷宏・松村雄策とともにロック音楽雑誌「ロッキング・オン」を創刊した橘川幸夫が、創刊から約十年の歩みを振り返ったものである。

一九七二年の創刊当時のロッキング・オンは、商業雑誌というより同人誌に近い形で、メンバーが書店やロック喫茶に直接持ち込んで販売していた。売れても売れても資金繰りは苦しく、メンバーはずっと無給。思想はバラバラで、全員が揃った編集会議はほとんど行われなかった。個性的な人々の自由な生きざまから、七十年代の文化の発信地の空気が伝わってくる。

初期のロッキング・オンは、ほぼ全編が投稿で構成されていた。このスタイルは、権威ある発信者をありがたがって拝聴するのではなく、作り手と受け手が一体となる場を重視する、ロックの価値観を体現するものであった。

そうした「参加型メディア」としてのロックの本質に目を開かれた著者の関心は、しだいに音楽を超えてゆく。「ロックを抜いたロッキング・オンを作りたい」と、文章や写真やイラストの全てが投稿で構成された「ポンプ」を創刊。岡崎京子をはじめ多彩な才能を育む場となった。「クオリティよりリアリティ」という精神は、現在のソーシャルメディアにそのまま通じる。

一九八一年に創刊メンバーは解散、それぞれの道を歩み始める。「社会の上で生きているのと同時に、もっと大きなステージである時代の上で生きている」という感覚をロックで育んだ著者は、音楽以外の世界にそれを敷衍していく。社会に呑まれるばかりでなく、時代に何かを仕掛けようとする才能を愛する。マーケティングの世界で活躍しながら、「無名の才能のある人と出会うための仕掛け」を作り続けてきた。

ロック音楽抜きでもロックはできる。著者はいち早くそれに気づき、実践してきた。「豆腐屋は豆腐をつくることでロックができるはずだし、教師は授業をすることでロックができるはずだ。むしろ生活全体でそうした新しいロック・ミュージシャンが生まれる社会でなければ、僕たちの欠落感は永遠に解消しない」。

ロック音楽が当時ほど文化の中心ではなくなった現在だが、ロックの精神は音楽とは独立に個人の生活の中に体現しうる。ロックであるという感覚を何よりも大切にした人々が、いかに集い、何を成し、どう生きてきたかを等身大で描いた本書は、今の時代にどうにかしてロックであろうとする読者を勇気づけてくれる。
この記事の中でご紹介した本
ロッキング・オンの時代/晶文社
ロッキング・オンの時代
著 者:橘川 幸夫
出版社:晶文社
以下のオンライン書店でご購入できます
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