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読書人紙面掲載 書評
更新日:2016年7月1日 / 新聞掲載日:2016年7月1日(第3146号)

書評
平和と対話の道として 多様な文化の交錯路・シルクロードの写真集


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飛行機からクチャを見ると、今でも活発に石炭や鉄鉱石の採掘がおこなわれている。かつて、安西都護府のあったクチャの亀茲国は、この豊富な地下資源をもとに鉄鋳造を行い、周辺へ輸出することで莫大な財を手に入れた。クチャの塩化アンモニウム(〓砂)もまた唐への朝貢品として珍重されていたという。亀茲国の仏教僧院であるキジル千仏洞の壁画には、アフガニスタンから採掘されたラピスラズリの青色がふんだんに使われているが、僧院のパトロンが非常に裕福であったのだろう、ここの青色顔料は、ずば抜けて質の高い原石を精練したものである。

シルクロードというと、砂漠の乾いた薄茶色が浮かぶかもしれない。しかし、実際に空からみれば、クチャも、ホータンもカシュガルも、今なお緑豊かなオアシスである。2014年に世界遺産に登録された「シルクロード・長安―天山回廊道路網」のうち、新疆ウイグル自治区から、キジル千仏洞やクズルガハ烽火台、スバシ仏教寺址、交河故城、高昌故城、北庭故城の6件が選ばれている。この「天山回廊道路網」は、中国とキルギス、カザフスタンの3カ国が共同申請したものであり、東西を網のようにつなぐシルクロードの一部である。この地域には仏教だけでなく、マニ教、ゾロアスター教、ネストリウス派キリスト教の痕跡が残されており、まさに多様な文化の交錯路であった。この地の考古遺跡は、20世紀初頭に列強諸国による探検調査で掘り荒らされ、めぼしい出土資料や壁画の多くは欧米の博物館へと流出してしまった。

本書は、ウイグル自治区60周年を記念して出版された『新疆・世界文化遺産図鑑』の日本語版である。6遺跡とその出土遺物がカラー写真で紹介されており、なかでも緑と茶色のコントラストがまぶしい。本書に紹介される資料の多くには、「流出」の文字がつく。だからこそ、この風景のなかで文化遺産が守り伝えられていくことに大きな意義がある。監修にあたられた小島康誉は、この地で仏教遺跡の調査と文化遺産保護を精力的に行っている僧侶として、この地域で知らぬ人はいない。本書に登場する小島のまなざしは新疆への愛情に満ちている。中国政府は、新疆や中央アジアにおける文化遺産の保護と同時に、資源開発や経済開発に対しても極めて熱心である。ウイグル族との対立や無差別的な開発は、民族問題や環境問題としてそこここに顕在化している。しかし一方で、シルクロード世界遺産構想は、国境を越えて近隣国が協力し、平和と対話の道として現代によみがえらせたいという願いから生み出されたものでもあることを、本書から改めて考えさせられる。(本田朋子訳)
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