【私の研究テーマを紹介します】
女性キャラクターに注視し、現代への接続を試みる

著 者:風間彩香
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【私の研究テーマを紹介します】
女性キャラクターに注視し、現代への接続を試みる

風間彩香(新潟大学研究員)



◆研究発表テーマ
Anna Brownell Jamesonのオフィーリア像――シェイクスピア受容における女性の性格批評


 オフィーリアは変容し続けている。原作での弱く哀れなヒロイン像とは対照的に、同名のヤング・アダルト小説(二〇〇六)の映画化『オフィーリア』(二〇一八)では、『スター・ウォーズ フォースの覚醒』(二〇一五)での女戦士レイ役が記憶に新しいデイジー・リドリー(一九九二― )を主演に据えることで、強くたくましく生き抜く女性として現代社会におけるティーンのロールモデルに変容している。また、Twitterで「#名画で学ぶ主婦業」として話題となったシリーズでは、オフィーリアは節約のため仕舞い湯で全身を温める主婦となり、「死ぬときぐらい、好きにさせてよ」のキャッチフレーズで樹木希林(一九四三―二〇一八)が体現したのは、高齢化が急速に進む現代日本社会という文脈において自分なりの方法、タイミングで死を成し遂げた存在として解釈されたオフィーリアであった。

 こうした劇中のキャラクターを同時代人としてとらえようとする姿勢は、十九世紀に活発化した性格批評に遡ることができる。その代表的論者としては主にサミュエル・テイラー・コールリッジ(一七七二―一八三四)などの男性批評家が取り上げられてきたが、実は性格批評の主な担い手はフェミニスト作家アンナ・ブラウネル・ジェイムソン(一七九四―一八六〇)を筆頭とする女性批評家や女優たちであった。彼女たちはこれまで批評史上で無視されてきたシェイクスピア劇の女性キャラクターに光を当て、オフィーリアに関して言えば「性格がない」として分析の俎上にのせなかったコールリッジの見解に反抗し、その性格造形や幼少期を想像、分析し、フェミニズムの観点から女性読者のための教訓素材とした。一九六〇年代以降のシェイクスピア批評において性格批評は主観的印象に頼りすぎているとの理由から退けられてきたが、女性キャラクターに注視し同時代の文脈で解釈することでプロパガンダとする女性たちの試みは、確実に現代の受容に受け継がれている。女性たちが発した「声」を拾い上げ、その軌跡をたどり、現代に接続することを目標に研究に取り組んでいる。(かざま・あやか=英文学・英語圏文学・フェミニズム)