ヒトとウイルス、その“恐怖”の歴史―人類と
感染症のかかわりをたどる【完全版】

加藤茂孝(『人類と感染症の歴史』シリーズ著者、元国立感染症研究所室長)× 澤井 直(順天堂大学医学部医史学研究室・助教、『医学史事典』編集幹事)往復書簡

加藤茂孝著『人類と感染症の歴史』『続・人類と感染症の歴史』(丸善出版)

 COVID-19という未知のウイルスによって、人類が新たな恐怖に見舞われている現在、我々はどのように立ち向かうべきか、どのように乗り越えられるのか。
 本企画では、『人類と感染症の歴史』シリーズの著者で、日本の感染症研究における最前線にいたウイルスの専門家・加藤茂孝氏と、古代~近世西ヨーロッパにおける医学史の専門家・澤井直氏の往復書簡という形式で、「新型コロナウイルスの正体」と「未知の感染症の恐ろしさの根底にあるもの」に感染症研究と医学史の両面から迫る。
お二人の対話から、その〝恐怖〟の歴史と、今後の展望を探る。(編集部)《週刊読書人2020年6月12日号掲載》

*加藤茂孝氏の著書『続・人類と感染症の歴史』の一部を丸善出版のウェブで無償公開。加藤氏による、新型コロナウイルスの最新コラムも掲載。→https://www.maruzen-publishing.co.jp/info/n19784.html


■新型コロナウイルスの正体/七番目のヒト・コロナウイルス

◎澤井直→加藤茂孝

【澤井】 今回は加藤先生に質問させていただく機会を得ることができましたので、今後の人類が未知の感染症とどのように向き合うのがいいかという点についてウイルス学者としての先生の見解をお聞きしたいと考えています。最初に、新型コロナウイルスについての基本的な質問から始めることにいたします。

  ▽一・基本的な概念・用語について

 昨今の新型コロナウイルスに関する報道やネット上での発言を見ると、用語や概念について理解が不十分と思われる場合が見受けられます。正しい理解のために、特に以下の二点について教えて下さい。

(1)ウイルス、細菌、その他の種類の感染症の病原体の特徴
(2)感染、伝染、流行、エピデミック、パンデミックの定義・関係性

▽二・コロナウイルスについて
 コロナウイルスとはどのようなウイルスなのか。特徴や増殖の仕方、存在する環境について。

▽三・コロナウイルスの歴史について
 コロナウイルスの変異や進化の歴史。

▽四・コロナウイルスの人間への影響の歴史について
 今回の新型コロナウイルス流行でコロナウイルスへの注目が高まっています。SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)以前にコロナウイルスが原因の感染症や大規模な流行はあったのか、コロナウイルスが人間に与えた影響の歴史について。

▽五・コロナウイルスの理解の歴史について
 新型コロナウイルス流行以前に、これまでどのようなコロナウイルスの研究がなされていたか。



◎加藤茂孝 → 澤井直

【加藤】 ご質問をありがとうございました。新型コロナウイルスによる外出自粛という制約のお陰で、このような往復書簡を交わす機会が得られて嬉しく思います。さて、お答えです。

▽一・基本概念
(1)病原体
 「病原体」という言葉は病気を起こさせられた人間から見た命名です。大きさの小さい順から、ウイルス、クラミジア、リケッチア、細菌、寄生虫たちは自らを病原体とは全く思っておらず、ただ生き抜き、自分の子孫(つまり自分の遺伝子)を残そうと努力しているだけです。動物・植物・細菌・古細菌の生物全ては遺伝子DNAを持ち、一個で独立して生きていけます。クラミジア、リケッチアはわずかに欠損があり、生きている他の細胞に寄生します。ところがウイルスだけは、全面的に他の生物に寄生して、エネルギーと子孫を作るための工場を借りています。生命の重要な要素としては、遺伝子(DNAかRNA)だけを持っている、生物と無生物の間の存在なのです。それでも、自分の子孫を残そうという目的だけは他の全ての生物と同じです。RNAを遺伝子としているのはウイルスの一部だけに見られる、生物全体としては稀有な形で、話題の新型コロナウイルスはこのRNAウイルスです。
 その病原体が、自分が増えるためや生活のエネルギーを貰うために利用する場所(臓器や細胞)により、病状は変わります。激しい病変を起こす病原体、つまり、宿主を殺す病原体は、子孫を多く残せません。賢い病原体、つまり宿主を殺さない病原体ほど、子孫を多く残せるのです。そして、新型コロナウイルスは、厄介なことに大変賢いウイルスです。

(2)感染と伝染
 伝染というのは病気が宿主から別の宿主にうつるということであり、感染は病原微生物が宿主に入ることです。この両者はしばしば混同されており、「感染症法」の成立以降、特に法律上では伝染病ではなく感染症と言われるようになりました。感染症の流行を「エピデミック」と言いますが、それが大規模、とりわけ世界規模になった場合を「パンデミック」と言います。

▽二~五・コロナウイルスについて
 コロナウイルスは、電子顕微鏡で見た姿がコロナ(王冠)の形をしていることから名付けられました。ヒト・コロナウイルスは、今回の新型を含めてこれまで七種類見つかっています。  コロナウイルスが最初に見つかったのは一九六五年、風邪を起こすウイルスでした。風邪の原因になるコロナウイルスは全部で四種類確認されていました。
 ところが、二〇〇二年から〇三年に掛けて、五番目のヒト・コロナウイルス、SARSが出現しました。〇二年一一月一六日、中国の広東省仏山市で第一号の患者が出て、その患者を診た広州市の医師が結婚式参加の為に香港のホテルに滞在して感染を広げ、その感染者たちがそれぞれの故国に帰って更に感染を広げました。〇三年三月三日にベトナムのフレンチ病院で患者の一人を診て、新しい型の肺炎であると見抜いたのは、当時ハノイに駐在していたWHO医官のイタリア人カルロ・ウルバニで、熱心に治療に当っていた彼自身も感染し、タイに急送されましたが、そこで三月二九日に亡くなりました。終息する迄の半年間に世界で約八〇〇〇人の患者が出て、約八〇〇人が死亡しました(致死率約一〇%)。終息に成功したのは、WHOの「緊急でない渡航の自粛」要請で、この要請にはWHO西太平洋地区事務局長の尾身茂や押谷仁など日本人スタッフが大変貢献しました。このお二人は今回も専門家会議で活躍されています。不思議なことにこれ以降一七年間、SARSは出現していません。もともとが、コウモリのウイルスであったと考えられており、コウモリからハクビシンなどの動物を介した可能性があるが、ヒトに入る機会が極めて稀にしか起こらなかったからであろうと、CDC(米国疾病対策センター)でSARSの研究チームのリーダーであったポール・ロタと話したことを記憶しています。
 六番目のヒト・コロナウイルスは一二年に発見されたMERSです。サウジアラビアのラクダからヒトに感染したのですが、もともとはSARSと同じようにコウモリのウイルスと推測されています。一五年には、サウジアラビアを商用で訪れた韓国人が帰国後に、中東とはるか離れた韓国に広げて一八六人の感染者と三七人の死亡者が出ました。MERSはSARSに比べて感染者や死亡者の絶対数は少ないですが、致死率は約三五%と極めて高く、ラクダを飼っている中東諸国では、いまだに小数例ながらMERSは続いています。韓国は自国への飛び火でパニックに陥ったことから、これ以降感染症対策に敏感になり、PCR検査の設備や対策人員を強化しました。それが今回のCOVID-19への対策に役立ちました。
 そして、一九年に発生した新型コロナウイルスCOVID-19が七番目のヒト・コロナウイルスです。これら七つのヒト・コロナウイルスを病原性の強さで分類すると、肺炎を引き起こす強毒性のものが毒性の強い順に、MERS、SARS、COVID-19の三種、先に述べた風邪を引き起こす弱毒性のものが四種あります。
 COVID-19は、一九年一一月に第一例が湖北省武漢市に発生しました。一二月三〇日になって、武漢市中心医院の艾芬医師は原因不明の肺炎を発症した患者のウイルス検査報告書をスマホで撮影し、「SARSコロナウイルス」の文言に印をつけた写真を同僚に送信しました。これが新型肺炎発見の最初とされています。同病院の眼科医師李文亮氏ら、医師仲間八人とこれは新しい肺炎(七人の患者発生)であるとSNSで注意を喚起しあいました。李が眼の診断をした患者も肺炎を発症していたからです。ところが、李は二〇年一月三日に警察に呼び出され、「デマを流し、世間を騒がせた」として、二度と発信しないと誓約書を書かされました。他の七人も病院の上司から訓戒を受けて「家族にも話すな」と厳しく沈黙を守らされました。三月一〇日に、艾芬氏は隠蔽させられた経過を中国の雑誌『人物』のインタビューを受けて話しましたが、その記事はインターネット公開後三時間で削除されました。その日が習近平の初の武漢訪問の日だったからです。それによって、新型肺炎の情報発信と対策が遅れ、その後の急速な感染拡大を呼ぶことになりました。患者の治療に当っていた李文亮氏は、自らも感染して二月七日に死亡。SARSの場合のウルバニと同じことが起きたのです。
 WHOは遅ればせながら一月三〇日「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言しました。中国政府は一月二三日から武漢市を封鎖し、その間に臨時病院二棟(二〇〇〇床)を作るなど一万四千床の臨時施設を作り上げました。現在までのところ中国当局の発表によると、約八万四千人の患者、約四六〇〇人の死者で抑え込んでいます。四月八日、武漢市の封鎖は解除され移動は自由になりましたが、市民への感染防止の厳しい規制は続いています。
 その後、感染はヨーロッパ、中東、米国、南米、アフリカ、オーストラリアまで拡大していき、WHOは三月一一日にパンデミックと認定しました。患者数は刻々と増加していますが、五月一五日現在、CSSE統計では世界の一八五カ国・地域に及び、感染者四四四万人、死者三〇・二万人になり、全く終息の気配は見えません。そして第二次世界大戦後で、最大の世界的惨禍であると言われることになりました。当初感染者の大部分を占めていた中国やそれに続く韓国は、強硬な封鎖やIT技術による監視体制により拡大を抑えられるようになってきたところ、先進国で医療レベルも高いと思われていたイタリア、スペイン、フランスなどのヨーロッパ諸国、米国に急拡大しました。
 SARS・MERSが早期に抑制出来た背景は、患者が必ず症状を出すことであり、対策はその症状のある人を集中的に隔離治療することで抑えられました。COVID-19の厄介なところは、その明確な症状を出す患者が感染者のわずか二〇%しかいないことで、残り八〇%を確実に見つけ出すことが出来ないところです。
 COVID-19はその意味で大変賢い。宿主に選ばれてしまったヒトから見れば、大変厄介なウイルスです。
 このウイルスへの対策に当っては、ウイルスの戦略を知りそれに効率よく対抗する以外にはありません。その時に大事なことは、政治や経済といった人間側の事情を最優先してはいけないということ。そこを間違えれば必ずウイルスからしっぺ返しを食うことになります。感染症では政治が科学の上に立ってはいけないのです。
 この七種類のヒト・コロナウイルスについては、まだワクチンは開発されていません。単なる風邪だから不要(風邪コロナウイルス)、症状が明らかで隔離治療で済む、患者数が少なく巨額の開発費用とバランスが取れない(SARS・MERS)などの理由からでした。しかし、今回のCOVID-19はワクチン開発が真剣になされている初めての例なのです。


■緊急事態宣言解除後の今/未知の感染症と「常に備えを」

◎澤井直→加藤茂孝

【澤井】 緊急事態宣言が全面解除された後、今後の感染症との付き合い方に関してお聞きしたいと思います。

▽一・新たな感染症の可能性
 御著書『続・人類と感染症の歴史』の第8章とウェブ公開されている第9章は二一世紀以降に流行したエボラウイルス病とコロナウイルスであるSARSとMERSを扱う章ですが、どちらの感染症も(新種・変異であっても)病原体として既に研究者には知られていた種類のものであり、そのために迅速な研究が可能になっていたようです。このようにウイルス研究が進んだ現在、あるいは今後において、人類を脅かす新たな感染症とはどのようなものが予想されるのでしょうか。また、完全に未知の感染症が起こる可能性はあるのでしょうか。

▽二・感染症への備え
 同書の第10章では感染症に対する備えの重要性を説かれています。この質問を書いている五月二〇日時点で、アメリカでは経済活動が一部再開され、ヨーロッパでもロックダウンの規制が緩和され始め、日本でも緊急事態宣言が継続されているのは八都道府県となり、最も酷い状況からは脱したかのような雰囲気となっています。このあとは再流行への対策強化とともに今回の感染症流行への反省や今後への改善策の議論が行なわれていくと思います。その際にはこの第10章「常に備えを」が重要な視点を与えてくれると思います。
 最後の質問ですが、パンデミックにまでなった今回の新型コロナウイルスの流行、感染症への対策について、また社会の反応をご覧になった今、『続・人類と感染症の歴史』の、特に第10章の部分に新型コロナウイルスに関することをお書き加えになるとしたら、どのような内容をお考えでしょうか。



◎加藤茂孝 → 澤井直

【加藤】 COVID-19は、世界がほとんど同時に一つの感染症に向かい合った、人類の歴史上初めての出来事だと思います。スペイン風邪やペスト、天然痘よりも健康被害は少ないのに、心理的な不安感は一〇倍もあるかもしれません。さて、ご質問への答えです。

  ▽一・新たな感染症の可能性
 細胞培養という時間が掛かりかつ注意深さが要求されるウイルス分離ではなく、ウイルス学の進展に伴いウイルス遺伝子の塩基配列を既存のウイルスと比較する方法が出てきました。多くの遺伝子の配列情報が遺伝子バンクに蓄積され、それらを比較できるスーパーコンピュータが開発されたおかげです。
 COVID-19に関しても早くも一月中旬にはコロナウイルスであること、SARSウイルスと遺伝子配列が極めて近いことが中国から発表されています。
 全く未知のグループのウイルスが発見される可能性は、少しずつ減ってはいますが、今後も起こりえます。それは、人間社会の変化の影響が大変大きいからです。人口が爆発的に増え、天然資源の採掘、森林の伐採、食糧増産、観光などの目的で、今まではヒトが入ることがなかった地域へのヒトの進出が起こりました。その結果、今までは少なかった動物との接触機会が増え、動物のウイルスがヒトに感染するケースが増えました。
 ヒトの移動の規模拡大とスピードが増したことにより、仮に動物からヒトに入った新たな感染症が起きた時に、それが発生地域だけにとどまることなく、瞬く間に世界に広がったことも今回のパンデミックの要因です。
 MERSも、ことによると今までも極く稀にはラクダを飼う人々の間では起きていたのかもしれません。それが、ウイルス病として技術的に初めて見つかってMERSとされただけなのかもしれません。新しい病気と認識されて初めて調べられ、統計が出来るからです。ことによるとラクダ飼いが肺炎で亡くなることがあるということはその地域では以前から言われていたことかもしれません。
 二一世紀の新興感染症の中で、コウモリからヒトに移ったものが多く見つかり、コウモリのウイルス学が注目を浴びています。獣医学者は、ヒトに対する病原性が不明なウイルスを、いくつもコウモリから見つけています。

▽二・感染症への備え
 一に書いたように、新しいウイルス病は今後も絶えることなく出現・再出現してくると予想されます。これは三年から五年に一回くらいの高い頻度です。つまり、新興感染症の出現・再出現は人類と共にあるということです。それを考えるとCOVID-19が終わって「平和が戻った」と安心するのではなく、新興感染症がいつも出現する世界に我々は住んでいることを自覚して「常に備えを」することが大切です。
 小火が起きた時、バケツリレーで水をかける、消火器を持って駆けつけることを繰り返すのではなく、常に発生に備えて監視体制を整え、防火システムを完成させておくことです。それは火事が終わった時こそやっておくべきことです。
 その意味で、近年の新興感染症の発生やパンデミック時に起きる問題を解析して備えなければならないと思います。

(1)恒常的な対応機関の必要性
 COVID-19の流行が始まって、日本ではやっと二月一四日に「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」が設置されました。日本の制度ではいつも問題が起きてから専門家会議や諮問委員会を設置して対策に当ります。常に起るという認識がなく、いつも小火に対して慌てて消火器を持って駆けつける制度になっています。従って対応がどうしても遅れます。COVID-19で日本は幸い死者が少なくて世界から注目されています。その理由はこれから解析が必要ですが、対策の遅れにもかかわらず、日本において今まで積み上げてきたもののプラスの効果があったからだと思っています。それは、①握手やハグをしない、靴は室内では脱ぐなどの文化的背景、②国民皆保険の制度があり医療に簡単にアクセスでき、基礎疾患に対して日頃から治療が行われている、③医療関係者の努力により重症化する前の治療が一人一人に行われたこと、そしてぎりぎりの線で医療崩壊を免れたことなどによる幸運な結果であったと思います。
 その幸運に甘えることなく、新興感染症に対して発生に備えた事前及び発生直後の迅速な調査研究と対策立案を行う恒常的な機関が必要です。

(2)信頼できる情報発信
 SARS、MERS、COVID-19の全てにおいて、発生初期に発生情報が政治的な理由で抑えられました。それによって流行の拡大が起きました。情報発信がたちどころに行われてさえいれば、拡大規模がおそらく実際の一〇分の一以下に抑えられていたと思われます。早期発見・早期対応こそ感染症対策の基本であることを痛感させられます。
感染症対策は、感染症に対するものではあるけれども、もっと大きなことは人々の不安に対する対策です。人は目に見えないものを恐れます。病原体、化学物質、放射性物質、さらに言えば、未来や人の心も目に見えません。パンデミックで人々が不安に駆られるのはまずは病原体への恐れですが、それ以上に未来(パンデミックの行先、ひいては自分の生活)が見えないことへの不安です。
 不安を抑えるのは、実態を見えるようにする以外にはありません。実態を詳細に分かりやすく、人間側の都合を優先することなく、ウイルスの実態に沿って透明性をもって、刻々と伝えることです。ここで、人気を挙げて選挙に勝ちたいとか、オリンピックをやりたいとか、経済活動を優先するとか、ウイルスの動向を無視した対策を優先するとウイルスから手痛いしっぺ返しを受けます。マイナスの情報も隠さずに公開することです。
 現在の日本では、一般的に正確で頼りになる、分かりやすい迅速な情報発信が欠けています。これは平時でも欠けていますが、情報が極めて重要な意味を持つパンデミックの際でもまだ欠けています。
 社会心理学の調査では、信頼性のある組織に関する調査で、ワースト三(信頼できない組織)は国会、政府、マスメディアの順です。残念ながら実際にCOVID-19でもそうなっていました。
 思い出すのは、CDCにいた時の二〇〇三年の米国における情報発信です。この年は、同時多発テロの後に起きた炭疽菌事件、イラク侵攻の際の兵士への種痘(天然痘ワクチン接種)、SARSの発生という三つの感染症関係の事件が起きました。それに対してCDC長官であったジュリー・ガーバーディングがTVで分かりやすく的確な情報発信を行い、国民の不安感・恐怖感を減らしていたことを思い起こします。CDC自身の調査研究活動と情報発信のおかげでCDCは全米の政府機関で国民のアンケートで一番高い信頼を得ていましたし、彼女自身世界を動かす女性一〇〇人の一人に選ばれました。情報発信の重要性を象徴する存在でした。この例のように信頼できる政府機関から専門家が透明性を以って刻々と情報発信をすることが大切です。
 ①「恒常的な対応機関」が、②「信頼できる情報発信機能」を果たすのが理想的ではないかと思います。
 有名になってきた言葉ですが、寺田寅彦の「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしい」でこの書簡を終わりたいと思います。ありがとうございました。
(本紙掲載分おわり)

<プロフィール>
 ★かとう・しげたか=理学博士、専門はウイルス学。国立感染症研究所室長、米国疾病対策センター(CDC)客員研究員、理化学研究所チームリーダーを歴任。現在は(株)保健科学研究所学術顧問。著書に『人類と感染症の歴史』『続・人類と感染症の歴史』など。『医学史事典』の一部項目の執筆も務める。一九四二年生。

 ★さわい・ただし=順天堂大学医学部医史学研究室・助教、専門は医史学、解剖学史、科学史。二〇二一年丸善出版より刊行予定『医学史事典』編集幹事。訳書に『ガレノス 西洋医学を支配したローマ帝国の医師』など。一九七五年生。

『人類と感染症の歴史 未知なる恐怖を超えて』
著 者:加藤茂孝
出版社:丸善出版
ISDB13:978-4-621-08635-3


『続・人類と感染症の歴史 新たな恐怖に備える』
著 者:加藤茂孝
出版社:丸善出版
ISDB13:978-4-621-30294-1