「フリアンは人魚」

『Julian is a Mermaid』 Jessica Love著・画 (Walker Books)
フリアンは小さな男の子。今日はおばあちゃんのスイミング教室にお付き合いの日だ。おばあちゃんたちは皆、カラフルな水着で泳ぎの基礎を習っている。その足元にフリアンは潜り、一人で悠々と泳いでいる。  その帰り道の地下鉄でフリアンは人魚の仮装をした、とても綺麗な人たちに出会い、たちまち自分も人魚になった白昼夢を見る。人間の服を脱いで、尾ヒレが生えて、髪が長く伸びて、海の中で魚たちと自由に泳ぎ回る……。  家に着いたフリアンは、人魚が頭から離れない。おばあちゃんがお風呂に入っている間に、いい考えが浮かんだ。レースのカーテンを腰に巻き、花瓶の花を髪に挿し、おばあちゃんの口紅を塗って人魚になったのだ!  お風呂から出てきたおばあちゃんは孫息子の姿を見て、一瞬顔をしかめる。フリアンは自分がいけないことをしたのかと不安になる。けれど、おばあちゃんは自分のピンクのビーズのネックレスをフリアンに手渡し、それからフリアンの手を引いて、再び外に出る。道ですれ違う人たちは誰もジロジロ見たりしない。やがて道は人魚の姿をした人たちでいっぱいになる。マーメイド・パレードだ!  おばあちゃんは気が引けるフリアンを勇気付け、パレードに参加させる。人魚を筆頭にサカナ、エビ、タコ、エイ、巻貝……海の生き物の仮装をした人たちに混じってフリアンも誇らしげに、そして心から楽しく、ビーチを練り歩くのだった。  本作の真の主人公は、おばあちゃんだ。人魚に憧れる幼い孫息子を受け入れ、フリアンが心置きなく人魚になれる環境を提供した。トランスジェンダーの子供たちが出会う最初の壁は家族であることも多い。とくに信仰熱心な黒人やヒスパニックの年配者にとってトランスジェンダーの受け入れは非常に難しい問題であり、フリアンのおばあちゃんも最初は険しい表情になる。だが、おばあちゃんは自身の葛藤を乗り越え、フリアンをパレードに連れ出したのだ。  ちなみにこのマーメイド・パレードは、ニューヨークのコニーアイランドで毎年開催される名物パレードだ。老若男女に加え、ドラァグクイーンたちの、それはそれは艶やかな人魚姿が目玉となる。今年も6月20日に開催予定だったが、ニューヨーク市内の6月のイベントはコロナ禍により、全て中止となっている。だが主催者は日にちをずらし、必ず開催すると語っている。願わくば、夏の眩しい日差しが降り注ぐ間にマーメイド・パレード開催が叶いますように。(どうもと・かおる=NY在住ライター)