MMT(現代貨幣理論)
正しい[理解・検証・議論]のために

対談=森永康平×田中秀臣

森永康平著『MMTが日本を救う』(宝島社)刊行を機に

 平成から続く日本経済の長期停滞は2019年に実施された消費増税、そして今年に入り猛威をふるっている新型コロナによる影響で新たな局面を迎えようとしている。日本経済に明るい兆しが見えないなか、昨年経済論者を中心にネットなどで注目を集めた経済理論の「MMT(現代貨幣理論)」は侃々諤々、大いに議論を巻き起こし、関連する書籍も多数出版された。
 経済アナリストの森永康平氏が初の単著となる『MMTが日本を救う』(宝島社)を6月に上梓した。MMTの基本的な理論をわかりやすく解説し、同時に日本経済の現状を新型コロナの影響も加味しつつ論じた一冊である。
 今回、森永氏と経済学者の田中秀臣氏にZOOMで対談いただき、「MMT」の主張の根幹となる部分を中心に検証していただいた。(編集部)

 ※本記事は2020年11月30日(月)迄全編無料公開し、それ以降は一部を除き有料での公開となります。



MMT ブームと曲解

 森永 今回の対談の企画書を見せていただいたときに、相手方の第一案に田中先生のお名前があったのを見て、さすがにMMTを批判的に論じている田中先生は引き受けていただけないだろうと思っていたんですよ。それが今回対談をご快諾いただいたということで、正直驚きました。

 田中 実は僕が大学院生のとき、1990年代のはじめ頃ですが、そのときからMMTの始祖とされているハイマン・ミンスキーのことは知っていたんです。なぜかというと、その当時、日本はバブルが崩壊し、もしかするとこのまま完全に長期停滞につき進むのではないかと危惧していて、デフレ脱却のための論文をジョセフ・スティグリッツの弟子の藪下史郎さんと共同で書く準備を進めていたんですよ、ちゃんとしたモデルを作ってね。そのときに読んだ多くの論文の中に、ミンスキーの弟子で昨年翻訳された『MMT現代貨幣理論入門』(東洋経済新報社)の著者のランダル・レイが書いたものもあった。もちろんミンスキーの論文や著作、そして未公刊の講義ノートのコピーなんかも手に入れて読みました。だからランダル・レイのこともMMTのベースになるものも昔から知っていたし、当時はそれほど違和感なく読んでいたんです。ただ、藪下さんによるとミンスキーの論旨はすでにジェームス・トービンがもっと理論的にフォーマルな形で論じている、というんです。具体的には藪下さんと浜田宏一先生が翻訳した『マクロ経済学の再検討』(日本経済新聞出版社)やのちに藪下さんらが翻訳された『トービン金融論』(東洋経済新報社)に記されていますね。

 結局、我々が書いた「デフレ脱却のためにはマネーを増やすことと同時に、『期待』というものに影響を与えることが重要である」、というテーマの論文にミンスキー話題は、金融危機の展望を書いた部分で紹介した以外には参照しなかった。けれども我々が作ったモデルのベースにはミンスキーなどの主張と重なる部分があります。ただそれは別にミンスキーからの影響ではなく、単に言ってることが部分的に似ているということだけです。MMTの発言を表層だけみれば、リフレ的な発言と似てるように思えますが、それは理解が足りない典型的な反応だと思います。さらに問題はミンスキーの主張はトービンとは違いフォーマルではなかったということ。そのことがわかったので僕はミンスキーやランダル・レイの論著に別れを告げた、といういきさつがあります。「別れを告げた」というほどの影響もなく、単なる使えないものは捨てた、というテクニカルな話でしかありません。

 去年MMTが日本で取り上げられるようになったじゃないですか。はじめ、その動きには全く関心がなかったのですが、ネットでMMTを聞きかじった人たちが僕に対して批判してくるので、こちらとしても20年ぶりにランダル・レイの著作にあたって、MMT批判の論説を書いたんですね。

 森永 SNS上でMMTについての議論を見ていると、支持派でも反対派でも、そもそもの前提や主張を誤解しているな、と思うものは多々あります。

 田中 今回、森永さんが『MMTが日本を救う』という、MMTをきちんと理解するための本を上梓された、ということで僕も前回、MMTについて論説を書いてからほぼ1年ぶりに真剣にMMTを勉強し直したんですよ。

 森永 この本はもともと、新型コロナの影響が徐々に顕在化し、日本経済はこれからますます減速していく中それを乗り切るための手段として、今の低金利状態のなかでは金融政策でとれる選択肢は多くないので、もっと積極的な財政政策をとることが求められている。しかし、日本の場合は特に、財政支出を論じようとすると二言目には「国家破綻」、「デフォルト」、「ハイパーインフレ」というフレーズで反論する専門家が大勢いるし、主要メディアもその論旨で報じている現状ですよね。その結果、大多数の日本国民にもそのロジックが浸透してしまっている。そこに対して、今一部で積極的財政政策を主張している経済理論として、劇薬っぽく見えるけれどもMMTっていうものがあるよね、という話題を編集担当の方と話していたところから始まるんです。一方で、「MMT=たくさん金刷れ」という主張だと曲解している人も見受けられるし、そこの部分だけ汲み取って賛否が論じられているケースが多い。支持するにしても反対するにしてもきちんと理論の中身を理解してからでないとおかしいじゃないですか。だから、なるべく簡単に、かつ数式とか難しい用語を使わないでMMTのことを解説した本を書いたんです。

 そもそも、僕自身MMTに興味はあったものの、その説を100%支持しているわけではなかったので、本書の執筆にあたって、最近よく出版されている「MMTが正解である」といった趣旨の本にはしたくなかった。むしろ、なぜ今MMTに脚光が当たったのかといった、前段の話を説明したほうがいいんのではないか、という思いがありました。

 先日、政府が2018年の秋頃から景気後退していたことを認めましたが、その1年後に消費増税をしたため、経済が余計に落ち込んでいたんですね。そこに新型コロナの影響も加わって、今の日本経済はトリプルパンチをくらった状態です。今のMMTブームっていうのは先にアメリカからはじまって、日本では去年の消費増税議論のタイミングぐらいから火がつき、その後一気にバズワードのように語られ出しました。だけど理論自体は数十年前からあるものなので、なぜ今になって認知度が高まったか、その背景も解説したほうがフェアな内容になるので、日本経済の現状説明にもちゃんと紙幅を割いたんです。

 田中 森永さんは本書の第1、2章で現在の日本経済を論じていますが、この部分はお世辞ぬきに素晴らしい解説だな、と思いました。データを駆使して、景気後退に、消費税増税、そして新型コロナの影響が加わった三重苦の現在の日本経済の問題をわかりやすく説明している。論理と事実の裏付けがきちんとなされているんです。そして第6章でアフター・コロナを含めた森永さんの経済観、どういうふうに今後の日本や世界の経済と社会の動向を考えているのかがわかります。トマ・ピケティの話なども踏まえてね。さらに最近話題になったBLM(Black Lives Matter)に繋がるような話題やベーシックインカムの導入についての話も展開されているので、非常に好意的に読みました。そして今、言及していない第3~5章でMMTの解説をされているわけですが、ここの部分に対して言いたいことはあとに回します……。

 森永 (笑)