武漢の記憶を、後世へ

方方氏インタビュー 聞き手=土屋昌明(1・2面)/書評=山口守(2面)

方方著、飯塚容+渡辺新一訳『武漢日記 封鎖下60日の魂の記録』(河出書房新社)


「ある国の文明度を測る唯一の基準は、弱者に対して国がどういう態度を取るかだ。」(二月二四日:旧暦二月二日、一四一頁)

 二〇二〇年一月二三日、新型コロナウイルス感染症拡大を阻止するため、中国の一一〇〇万人都市・武漢が封鎖された。その封鎖から二日後、一月二五日から作家・方方(ファンファン)氏は自身のブログで武漢の実情を伝える日記の投稿を始めた。日記は称賛と批判の中で発信し続けられ、封鎖解除が通達された三月二四日まで六〇日に及んだ。深夜の更新を待ち望む読者は、彼女の日記に「真実」を知る手がかりを求め、驚き、悲しみ、怒りを共有して大きな心の慰めを得た。本書は最初期に未知の脅威に襲われた都市の、前例のない都市封鎖下で綴られた、ひとりの作家による魂の記録である。
 九月九日、方方著『武漢日記 封鎖下60日の魂の記録』(飯塚容+渡辺新一訳)が河出書房新社から刊行された。本書の刊行を機に、武漢の方方氏にメールによる書面インタビューを行った(回答は二〇二〇年九月四日)。インタビュアーは、土屋昌明氏(専修大学教授・中国思想文化史)。二面に山口守氏(日本大学教授・中国現代文学)による書評を掲載する。(編集部)



武漢への手紙

 「私はかつて、こう述べた。わずかな時代の塵でも、それが個人の頭に積もれば山となる。」(二月二日:旧暦一月九日、四二頁)

 ――方方さんの現在の状況および武漢の現在の状況について教えてください。

 方方 いまの生活は以前と同じように、家で本を読んだりものを書いたりするのが基本で、たまに友だちと郊外の散策に出かける程度です。定年退職したので、用事は少なくて済んでいます。何か月にも及んだネット上の暴力は、いまはほとんどなくなりました。当局は特別私に働きかけてはきませんが、これまでと同じく、私の本は中国で出版できないままです。『武漢日記』だけでなく旧作も、たとえ賞を取った作品でも、出版してくれる出版社はありません。これは悲しむべきことです。
 学校が新学期となり、町じゅうが活力に満ちています。でも人々の警戒感はまだかなり高く、外出にはマスクをつけているのが普通です。なかにはマスクを口につけてない人もいますが、いつでもつけられるよう携帯しています。<つづく>

本編のつづきは以下で読めます

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★ファンファン(Fang Fang)=武漢在住の著名な女性作家。二〇一〇年、魯迅文学賞受賞。武漢を舞台に、社会の底辺で生きる人々の姿を丁寧に描いた小説を数多く発表。一九五五年生。

★つちや・まさあき=専修大学教授。中国思想文化史。編著に『目撃!文化大革命』『ドキュメンタリー作家 王兵』など。一九六〇年生。