こがらしビオグラフィー

文芸〈十一月〉
荒木優太

木崎みつ子「コンジュジ」、藤原無雨「水と礫」

 新人賞祭りじゃ~い!

 新潮新人賞は小池水音「わからないままで」濱道拓「追いつかれた者たち」のW受賞。文藝賞は受賞作が藤原無雨「水とれき、優秀作として新胡桃あらたくるみ「星に帰れよ」。すばる文学賞では木崎みつ子「コンジュジ」が受賞に輝いた。

 小池作は、姉の死によって失意に落ち込み離婚しアル中で身を崩していく父親と離れて暮らすその息子との微妙な関係を描いたもの。固有名がなく登場人物が「男」「父親」「息子」などと表記される。読みにくく、なにが面白いのかさっぱり分からなかった。とりあえず、男連中が無駄にモテていてムカついた。

 濱道作は、二〇年前、地元の不良少年たちが引き起こした失火事件を再構成したもの。宮本&斉藤(舎弟コンビ)、千堂&陣内(悪人コンビ)、里谷&巽(救出コンビ)という二人組のトライアングルを構え、そのホモソーシャリティがもつ薄っぺらい虚勢と歯止めをなくしていく暴力の連鎖を推理小説風に語っていく。一箇所、ある男を閉じ込める場面がいかにも井伏チックで、意識的かどうかは不明だが、個人的にはドストエフスキーが書いた『山椒魚』といった印象を強くもった。イブセフスキーの称号をあげよう。トライアングルのなかで、里谷&巽コンビだけがやや線が薄く、本来ならばより重厚な長編で臨み、他の組と拮抗できる奥行きが備わっていた方が適切なバランスになっただろう。受賞者インタビューによれば続編への意欲もあるようなので期待して待ちたい。

 途中まで退屈で気を失いそうになったが、読み終わってみればその退屈さえもいとおしい。藤原作は、故郷に還ってきたあと砂漠の旅を経て新天地に安住を見出したクザーノを中心に、五代に渡る父子たちの生きざまを独特の形式で語る。独特というのは「1」「2」「3」という一定のシークエンスを螺旋状に語る/語り直すことで、重複しながらもずれていく、「反復するごとに、しっとりとした新たな面を見せるということが分かって」くる時空のこと。「しっとり」、それは水分を含むの謂い。この作の主人公は水分量の増減それ自体といってよく、気がついたら飲まされている地元の水、体内に残る故郷の水、コネチカット酒、そして「乾いた土地」への砂漠旅など、激しく水分量が上下する。水気を帯びた時間とは土地に紐づけられた人間関係の厚みそのものであり、旅はそれらを乾かせる。ただし、到達した乾きはそこで終わるのではなく新たな水を受け止めるための受け皿でもある。「私とか、人生、なんて領域はない。魂は無限の網の目だ」という断言に、独歩以来の内的人間論を打ち破ろうとする新時代の威風を感じる。

 あらた作は、カノジョを尾行しだす思慮の足りない真柴翔、真柴と付き合いながらもパパ活に精を出す早見麻優、そして深夜の公園で生ハムを食う「モルヒネ」、愉快な高校生たちの不断のキャラ闘争のなかで諦めない心構えを問う。価値観が違うだけで人は多くのことを諦める。パパ活する女子高生なんて愛せない? 他者への配慮に偽装した棲み分けの安心感を打ち砕く、別の「星」をこいねがう。文章に稚拙さを感じなくもないが、頭のおかしい連中が頭のおかしいままに懸命で好感をもった。このまま頑張ってください。

 新人賞のなかでもっとも印象深かったのは、木崎作。かつて活躍した四人組バンドのボーカル・リアンに熱烈に恋する正木せれなは、妄想のなかでリアンとの逢瀬を何度も楽しむものの、妻に逃げられ自殺願望をもつ父親にレイプされたことをきっかけに、さらにいびつと化した妄想世界のなかに没入していく。この小説は、本は読み終わらねばならないという厳しい命令を発している。小学生の頃、後追いのせれなは最盛期のリアンを知るために「五百八十六ページもあった」「『リアン・ノートン』というタイトルの彼の伝記本」を図書館で手に取るが、自身の都合のいい虫食い状の読書に留まる。父が死んだあと、その伝記本を古本屋で購入した彼女は改めて「不倫」「離婚」「薬物依存」「独裁者」などの見出しで語られるリアンの実像を知り、自身を助けてくれもしたイマジナリー・フレンドとの決定的な別れを果たす。果たした先に幸福が待っているわけではない。にも拘らず、読み捨てたままでよかったはずはない。積読で構わない、全部読まなくても構わない……軟派な読書指南が流通する今日、本を読み通すことの残酷と祝福を同時に教える稀有な一作であった。

 第二回ブンゲイファイトクラブが始まっている。BFCがなんなのかは各自適当にググってほしい。個人的には如実「メイク・ビリーヴ」を面白く読んだ。言葉をテプラ(シールのやつ)に値するかどうかで判断するヘンテコ審美眼に、意外に本格的な詩論に触れた感想をもった。『春と修羅』は確かにテプラ感ある。優勝したら誰か褒めてください。(あらき・ゆうた=在野研究者)