命と尊厳、それぞれのBLMを

対談=山本伸×堂本かおる

『ブラック・ライブズ・スタディーズ』(三月社)刊行を機に

 二〇二〇年から継続するトピックといえばコロナウイルス、続いてBLM(ブラック・ライブズ・マター)ではないだろうか。六月に起こったジョージ・フロイド殺害から、アメリカ全土に広まり、日本でも耳にすることが多くなったBLM。今回の運動の特徴は、アメリカの四〇〇年の歴史の中で制度的、構造的に続く人種差別の撤廃を訴えている点だという。昨年末、『ブラック・ライブズ・スタディーズ BLM運動を知る15のクリティカル・エッセイ』が三月社より刊行された。刊行をきっかけに、編著者で東海学園大学教授の山本伸氏と、ニューヨーク在住のフリーランスライター堂本かおる氏に、BLMについて様々な角度からお話いただいた。(対談はオンラインで行った)(編集部)
≪週刊読書人2021年1月8日号掲載≫

『ブラック・ライブズ・スタディーズ』
著 者:山本伸+西垣内磨留美+馬場聡(編著)
出版社:三月社
ISBN13:978-4-9907755-5-1


マイノリティから死んでいく

 堂本 日本でBLMという言葉が知られるようになったのは、ジョージ・フロイドの事件以降ですよね。二〇二〇年ほどBLMに注目が集まった年はなかったでしょう。

 山本 そうですね。日本でも、ジョージ・フロイドが警官に首を押さえつけられる映像やデモの様子が、繰り返しニュースにのりました。黒人の置かれてきた歴史について多少は知っているものの、日本の多くの人にとって衝撃だったと思います。なぜあのような事件が未だに起こるのかと。

 僕は黒人研究学会というものに所属していますが、BLM運動を知るきっかけになればと、この機会に『ブラック・ライブズ・スタディーズ』を緊急出版することになりました。

 一方、堂本さんはニューヨークから、BLM関連の発信を様々されていました。直近の記事では大坂なおみさんの八枚目のマスクについて書いておられましたね。U.S.オープンで七枚のマスクを着けて試合に臨んだ大坂選手が、米国版ヴォーグ二〇二一年一月号で、「EMMETT TILL(エメット・ティル)」の文字入りのマスクを着けたと。

 エメット・ティルについては、僕も本書の論考で取り上げました。当時まだ言葉はなかったですが、BLMの象徴と言えるような事件ですよね。エメットの葬儀に参列したおばあさんとお会いしたことがありますが、すごい数の参列者だったと言っていました。

 堂本 一九五五年、白人の女性に口笛を吹いたとされ、十四歳だったエメットが、女性の夫と夫の兄に襲撃され、リンチの末に殺された事件ですよね。

 山本 長い時間殴り続け、片目をえぐりだし、頭を銃で撃って、遺体には重しをつけて川に沈めた。遺体が発見されたときミシシッピーの民衆たちの怒りは激しかったと聞きます。エメットの母親は息子が何をされたのか分かるように、顔が見える棺で葬儀を行った。でも結局白人男性たちは無罪になっています。

 堂本 マスクに記された八つの名前を見ると、大坂さんは割と同年代の人に、フォーカスしているのではないかと想像できます。あるインタビューでは、コンビニ帰りに射殺された十七歳のトレイヴォン・マーティンの死に、強い衝撃を受けたことを語っていました。二〇一二年当時、彼女は十四歳だった。そのときはじめて、黒人であるだけで子どもでも殺される、という現実を知ったと。BLMは、トレイヴォン・マーティンが殺されたときに生まれた言葉です。

 山本 十二歳で殺されたタミア・ライスの名も、彼女のマスクにありましたね。公園で模造銃で遊んでいたところを撃たれた少年です。

 いま、堂本さんの背後で、サイレンが鳴っているのが聞こえます。

 堂本 言われるまで気づかないぐらい、当たり前になってしまっていますが(笑)、二〇二〇年春、ニューヨーク市内で一日六〇〇人が死んだ、コロナ感染の地獄のような時期には、誇張ではなく二十四時間ずっとサイレンが鳴っていました。昨年四月はニューヨーク市にパンデミックが集中していました。そして感染して死ぬのは、黒人とラティーノが多かった。<つづく>

本編のつづきは以下で読めます



★やまもと・しん=東海学園大学教授・沖縄国際大学非常勤講師・英語圏カリブ文学専門。著書に『カリブ文学研究入門』、共編に『世界の黒人文学』、訳書にハイチ系アメリカ人作家E・ダンティカ『デュー・ブレーカー』など。FMラジオのDJという顔ももつ。一九六二年生。

★どうもと・かおる=ニューヨーク在住のフリーランスライター。一九九六年に渡米。米国およびニューヨークのブラックカルチャー、マイノリティ文化、移民、教育、犯罪など社会事情専門。本紙で、未翻訳の絵本を紹介する〈American Picture Book Review〉を月一回連載中。